濃い一日の終わり

 執務室へと転移して帰ると、とてもいい笑顔を浮かべたアニスが出迎えた。


「……ただいま」

「お帰りなさいませ。仕事はこれです」


 到着して早々、ドンッ! と書類の山を机の上へと置く。毎回毎回なんでここまで仕事あるんだろうか……あ、そうだ。


「この城に宰相とかいないの?」

「いますよ?」

「…え、いるの?」

「はい」


 居ないと予想していたけど、居たんだ……全然知らなかった。


「それ誰?」


 わたしがそう言うとアニスが自身を指さした。

 ………え?


「……え? マジで?」

「はい。わたしが宰相を務めてます。まぁ、ですけど」

「仮……?」

「だって……ユーリ様仕事が早すぎて、前任の宰相が自信なくなったって……逃げましたから」

「………はぁ?!」


 逃げたァ!?


「はい。なので決まるまで一応身近にいるわたしが、役職的には宰相になってます。従者と兼任ですね」

「……逃げたのいつよ」

「確か……ユーリ様が魔王になって5日後です」

「思ったよりすぐじゃないの!?」

「誰だって自信なくしますよ。普通この量だって1人でまる1日ですよ? それを半日も掛からず終わらせるなんて……」


 そう言われて言葉に詰まる。……早く終わらせてサボりたいと思って全力でやっていたからなぁ。……まぁ終わっても直ぐに追加が来るって分かったから、その頑張りは無駄だって気付いたんだけど。


「……今ところ、候補は?」

「いませんねぇ……だってユーリ様お一人で全部終わらせてしまいますから」

「わたしだってそんなに楽にこなしてる訳じゃないよ!」

「そう言われましても……こうやって話してる間にも仕事がどんどん終わってるじゃないですか」


 ……だってやらないと終わらないじゃない。話しながらでも一応出来るからね。



「……あれ?」

「どうしました?」

「……インク無くなった」


 使っていた万年筆のインクが無くなった。スペアも全て。


「…確か前にスペア補充したのいつでしたっけ?」

「え……3日前?」

「……そんなに無くなるの早いですか」

「うーん……最近書類多かったし、サインだけじゃなくて色々と書かないといけなかったりしたからなぁ……そのせいかも」

「……」


 アニスが手帳を取り出し、ペラペラとめくり出す。


「……配達されるのは明日ですね」

「あ、よかった」


 わたしが使っているインクは特別なもの。一応最高責任者のサインに使うからね。偽造防止だ。でも来るのが明日で良かった。


「……では今日はここまでですね」

「うん。はぁ……お腹空いたぁ」

「そう言えば昼食食べてませんね」


 そうだよ。今日はほんとに忙しかった……。

 朝から誘拐されて、王都まで行って組織潰して、仲間に会って……


「…1日で誘拐組織壊滅させてますね」

「わたしを誘拐したのが運の尽きだ」

「……まぁ、今回のサボりは役に立ちましたね」

「……」


 仕事サボって誘拐組織を壊滅させたって……サボったはずなのにサボれてないわぁ……


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