魔王様、仕事して下さい!

家具屋ふふみに

仕事なんて嫌い

 だだっ広い部屋に、紙がこすれる音と何かを書く音。判子を押す音。ただそれだけが響く。


「はぁ……」


 ……それと、わたしのため息も。


「なんでこんなことしなきゃいけないんだー!」


 広い部屋で叫ぶ。わたしは! 自由に! 自堕落な! 生活を! したいだけなのに!


「…叫んでると思えば、いつもの事ですか」


 すっと気配もなく部屋に現れたヒト。スラリとした体型に艶やかな黒髪。煌めくすみれ色の瞳。


「…なによ、悪い? アニス」


 彼女の名前はアニス。わたしの部下……のはずなんだけどねぇ。


「悪いです」


 ニッコリと笑顔でそう言ってくる。わたしの言葉に真っ向から反抗するのはコイツくらいだ。ほんとわたしの部下なんだろうか……。


「とはいえ、最近仕事も多そうですしねぇ」

「あ、なんか最近増えてるって思ってたのは気のせいじゃないのね」


 なんか最近多いなーって思ってたんだよね。わたしの周りに積まれた、減った様子のない書類の山を見て一人頷く。


「ええ。もうそろそろ収穫祭ですし」


 収穫祭。それは年に1度行われる祭典。

 神の恵みに感謝して、元気に過ごしましょ~って言って、騒ぐだけの祭典。


「…無くなんないかな」


 わたしをほっといて楽しむなんて……


「貴方様が言うとシャレになりませんから、やめてください」


 失礼な。楽しみにしている祭典だと言うのに、そんな勝手なことをするはずないじゃないか。…ほんとだよ?


「…わたしも遊ぶ」

「ダメです」

「なら止めてみるがいい! わははっ!」


 わたしは先程までいた執務室から外へ転移する。さぁ、遊ぶぞ!










 わたしはあの方が消えた椅子を眺める。逆探知できないって……ほんとに無駄なことに才能を使いますね…。


「はぁ…本当にあの方には、としての自覚あるんでしょうか」


 そう呟いたところであの方が帰ってくることは無い。そう心配もありませんが……帰ってきた時の為に書類を集めておきましょうか。せいぜい楽しんでくるといいのです。ふふふ……。


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