「第七話」もう一つの街

 建物の中は薄暗く、家具などは殆ど置いていなかった。それどころか人が住んでいたような、そういう剥き出しの生活感がどこにも感じられない。──そんな部屋の隅に、バンを人質に取った男は躊躇なく進んでいく。


「……」


 そのまましゃがみ込み、床をなぞったり叩いたり……何かブツブツ呟いている。隙だらけの背中、今なら……やれる。


「妙なことしようとしてんなら、このガキ殺すぞ」

「っ……!」


 気づかれていた。見た目に反してあの男、中々に警戒心が強いらしい。もしも私が愚策に突っ込んでいれば、勝敗はともかくバンは確実に殺されていただろう。私はまたもや踏み出すことを躊躇い、こちらを申し訳無さそうに見てくるバンの苦しげな顔を、ただ見ていることしか出来なかった。


「……よし」


 男がそう言うと、地面が大きく揺れる。何が起きたのかと一瞬戸惑うが、答えはすぐに……部屋の床に現れた。一部が沈み、開き……なんと、地下深くにまで繋がる階段が現れたのだ。


「これは、魔法……?」

「と、思うじゃん? なんかな、これは『カラクリ』ってやつらしくてよぉ……まぁ詳しいことは知らねぇが、行くぞ」


 男は現れた階段を下り、そのまま闇へと消えていく。逃げられてしまうんじゃないかと不安になった私は、恐怖を感じるよりも前に階段を下った。ただでさえ薄暗かった部屋から、更に暗い階段へ……私がある程度降りると、開いていた床は勝手に閉じてしまった。


「……」


 進むしか、無い。一切の光がない狭い空間に、私と男の足音が響く……視界が働かない分、よく反響して聞こえる。一体どこまで続いているのだろう? 罠の可能性は分かってはいたが、ここまで手が混んでいて何が起きるか予想できない場所に連れてこられるのは予想外だった。


「着いたぞ」


 そう言って立ち止まった男。直後、暗闇を裂くかのように光が入ってくる……私は光に目をくらませながら、ゆっくりと目を開けた。


 そこには、もう一つの街があった。

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