第18話 初めての紅白試合
--ミーティングを行った翌日--
授業を終えた放課後、俺はいつものように体育館へと向かい着替えて練習の準備をしていた。
「よー、和馬。だいぶ慣れたじゃん!」
ボールの入ったキャリー付きケースを体育館の倉庫から出していると、ふと弘樹が声をかけてくる。
「うん、流石にね」
得点板を出しながら歩く弘樹と歩幅を合わせてコートへと戻っていく。
「今日から本格的に練習も始まるし、何やるか楽しみだな!」
そう、今日から本入部後初の練習である。いつもは途中で終わっていたので、最後までやるのは緊張と共に楽しみでもあった。
「まぁ、6対6まではいつもと同じだろ。とりあえずはいつもと同じメニューかなぁ」
弘樹がそう言ってくる。恐らく弘樹の読みは正しいだろう。
……この時の俺は、そんなふうに考えていた。
「ま、とりあえず準備終わらせちまおうぜ!」
「おう!」
そう言うと、俺らは残った準備を手早く終わらせていった。
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「集合!」
「「押忍!」」
準備を終えてこれから始まる部活に向けてストレッチをしていると、体育館の中に部長が入ってくる。副部長が慌てて声をかけて、全員が部長のもとに集まっていった。
「全員いるな。よし、今日はいつもの練習と変えて、紅白戦をしようと思う!」
--紅白戦?
--なんでいきなり……
--ザワザワ……
急な部長の発言にざわつく部員達。俺もいきなりのことで戸惑っていると、部長が言葉を続ける。
「とりあえず、1年生の実力も見たいからな。1年対2、3年でやろう。ハンデとして、1年側に15点。20分一本勝負だ。なに、こちらもスタメン選手全員で固めたりはしない。実力が拮抗するように、3年は2人までとしよう」
部長がそんなふうに言ってくる。
流石に2、3年と戦うのは実力的に無理があるんじゃなかろうか。そう考えているうちにも、話はどんどんと進んでいく。
「とりあえず軽くアップをした後、チームに分かれて作戦を決めてスタートだ。そうだな……アップに30分掛かるとして、そこから15分チームごとに作戦会議した上で試合としよう。まずはアップだ。ランニング!」
「「押忍!!」」
部長の指示ののち、いつものようにアップが始まった。
--ランニング、パスワーク、シュート練を終えた後、俺たち1年生はコートの片側に集まって作戦会議を始める。チームを仕切っているのは弘樹だった。
「よっしゃ、とりあえずポジション決めるぞ。まずキーパーは岳でいいよな」
「まぁ、俺しかキーパーいねぇからな……」
岳は頭を掻きながら了承する。
なお、先ほど話している間で全員名前で呼び合うことが決まった。
「んで、センターは真斗、左45°が俺で右45°が篤だな」
「へいへい、センターやるのはいいけど、各メンバーの実力分からんからサインは出せねぇぞ?」
「大丈夫だ。サイン出して動けるほどやってねぇし、出しても変わらんでしょ」
「まー、たしかになぁ……」
真斗と弘樹が言葉を交わしている。サインとは何かと思っていたら、横にいた篤が教えてくれる。
「サインってのは、オフェンス中に使う、守備を乱すための動きのことだね。センターはサインを出して動きを指示するんだ」
「な、なるほど……」
なかなか難しそうだった。そもそも初心者の俺に攻撃の動きなんて分かるはずもない。
そんなことを考えているうちに弘樹はポジションを言っていく。
「んで、右サイドは優斗だな。優斗なら速攻で点取れるっしょ」
「ふん……。そもそもちゃんとパスが来れば、だけどな」
「あ? 俺を馬鹿にしてんのか?」
優斗が口にした言葉に岳が少し突っかかる。慌てて弘樹が止めに入る。
「まぁまぁ。優斗! 流石に言いすぎだろ!」
「ふん……」
弘樹に注意されるも、全く悪びれる気のない優斗は我関せずとボールを持って壁打ちをし出す。
「まったく……。さて、残るは左サイドとポストかぁ……。うーん……。隆って中学の時何部だったんだ?
「えっと……。僕はバスケ部だったよ。一応ポジションはセンター……だけど」
「センターなのか! ……よし、隆はポストお願いしようか。センターならフィジカルもある程度あるだろうし、戦えると思う」
「ポスト……?」
「ああ、簡単に言えば敵陣の中でディフェンスを掻き回したり、ディフェンスにブロックをかけてセンターとか45°が攻めやすいようにするんだ。あとはボールをもらったら全力でシュートを打つだけでいい」
「わ、わかった。やってみる……!」
なるほど、隆はバスケ部だったのか。どうりで肩幅などの体格が良いわけだ。そういうタイプの人がパスタをやるのか。
「さて、と……。残りは左サイドだけど……」
「あ、悪い。俺今日ちょっと足首痛くて参加できねぇわ」
「マジ? 大翔大丈夫かよ」
「見学してるわ、悪いな」
左サイドを誰がやるかの話になった際、大翔がそんなことを言い出す。
「となると……和馬、行けるか?」
「い、いけるけど……何すればいいの……?」
「まぁ、ディフェンスは前やった6対6と同じだな。んでキーパーが止めたり、相手がシュートを外したら全力で走って速攻だ。相手が戻って速攻が無理なら、コートの端に立って待て。んでボールもらったら思いっきりコートの中心に向かって飛んでシュート打つだけで良い」
「ま、俺が外からアドバイスしてやるよ」
弘樹と大翔がそんなふうに言ってくれる。
なるほど……。なかなか難しそうである。できるだろうか。
「ふん……。初心者が2人いるのに戦えるわけねぇだろ」
優斗が茶々を入れてくる。弘樹はちらっと裕太の方を見ながら言葉を返す。
「やってみなきゃわからんだろ。それとも、優斗は諦めるのか?」
「ふん……。諦めるとは言ってねぇよ」
流石同じ中学出身だからだろう。焚きつけ方がうまかった。
「ま、勝ち負けよりも楽しもうぜ!」
--ピィィィィ!
弘樹がそうみんなに伝えると同じタイミングでホイッスルが鳴る。
「よし! 試合やるぞ!」
部長がそう声をかける。コートにはすでに相手チームが待っていた。
「よっしゃ! いくぞ!!」
「「応!!」」
弘樹の声にみんなで答えてコートへと向かう。
コートの中央で相手チームと向かい合うと、審判役の部長が声をかけてくる。
「礼!」
「「お願いします!!」
いよいよ試合が始まる。
--緊張しながらも、俺の初めての試合が幕を開けた。
-第18話 完
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