クラスのマドンナは

@Rui570

 クラスのマドンナは

彼女は僕のクラスのマドンナだ。男女関係なく、全校生徒が一目惚れしてしまうほどの美少女で心優しく、成績も優秀。正直、僕も彼女のことが好きだ。彼女と付き合えたらいいなと僕は思うけど、それはないだろう。僕は何もかも平凡すぎて何も特徴がないからだ。




 日本のどこかにある私立若葉学園。学園の高等部の1年A組で夏休みが終了してしばらくしてから行われた中間試験の結果が返却されようとしていた。中間試験は全部で5教科であり、1教科につき100点満点だ。

「次呼びますよ。高井翼!」

高井翼と呼ばれた少年は黒板の前に立っている若い担任教師のもとへと歩み寄っていく。

「点数は悪くはありませんね。けれど、君はまだまだ上を目指せますよ。期末試験ではもっと点数を取れるよう頑張ってください。」

翼は担任教師だけを真っ直ぐ見つめてお辞儀をすると、解答用紙を受け取って自分の席に着いた。点数はまだ見ていない。

点数は悪くはないと言っていたが、どれくらいできているのだろう?

席に着いた翼は最初に国語の解答用紙を見た。点数は52点だ。

「半分ちょっとは取れているけど…1学期と比べると変わっていないな…」

翼は国語の解答用紙を置き、数学の解答用紙に視線を移す。60点と書かれている。1学期の時は48点だったから点数上がっている。点数が上がっていたため、翼は少しホッとするが、すぐにほかの教科の解答用紙に視線を移した。続いては英語だ。英語は42点となっている。点数が以前より下がっているため、翼はショックを受けた。

以前は50点代後半まで取れていたのに…。でも、落ち込んでいる暇があるなら次はどうするべきか考えるのが最優先だ。

翼はすぐに切り替えて理科の解答用紙を見つめた。点数は46点。

「1学期の時と何も変わっていない。対策はバッチリだと思ったけどなぁ…」

ぶつぶつ言いながら最後の1教科である社会の解答用紙を広げた。点数は58点となっている。1学期の時と比べると点数は上がっているが、翼はガックリと肩を落とした。あと少しで60点いけそうだったが、いけなかったからだ。

「5教科の合計は258点か。半分ちょっとだな…」

翼は中間試験の全ての教科の解答用紙をバッグにしまうと、廊下側の一番前の席に座っている一人の美少女を見つめた。




 彼女の名は立花未央奈。美しく整っている顔つきをしているだけでなく、成績も優秀で心優しい性格であるため、全校生徒から大人気である。翼も彼女に思いを寄せているのだ。

「未央奈、すごいね!合計点数が400点超えているね!」

未央奈の解答用紙を見て未央奈の友人である女子生徒たちが声を上げる。国語が80点、数学が92点、英語が84点、社会が78点、理科が82点と書かれている。

「今日は難しくなるだろうからいつもよりちょっと気合入れて勉強したの。」

未央奈は笑顔で友人に答える。

「俺は満点だけどな。」

振り向くと、学級委員長を務めている千葉文哉が立っていた。

「マジで?凄いね、文哉!」

「まぁな。俺自身の才能が怖いぜ。」

一人で笑っている文哉を見て、未央奈とその友人たちは苦笑いをしていた。




 離れたところで未央奈たちの話を聞いていた翼の負けじ魂に火がついた。

「僕も千葉君みたいに優秀な結果を残せるよう頑張らないと…!」

翼は席から立ちあがると、真っ先に担任のいる教卓のほうへと歩き出した。これには担任だけでなく、クラスメイトも驚いている。

「先生!」

「は…はい…どうかなさいましたか、高井君?」

「期末試験の範囲はまだ決まっていないのですか?」

「そうだな…まだ決まっていませんね。決まり次第説明するのでね。頑張ってください。」「はい。ありがとうございます!」

翼はお辞儀をして自分の席に戻っていく。

そんな翼を見て文哉はクラスメイトや担任に気づかれないように、小さく鼻で笑った。

「フン…。ただの馬鹿だな…高井翼…凡人ごときが…笑わせてくれるぜ…」

 一方で、未央奈も翼を見つめていた。

「すごい…もう期末試験の範囲を聞いている…私も頑張らないと…!」

未央奈は授業でメモを取るために使用しているノートをバッグから取り出し、ノートに書かれていることを読み始める。

「未央奈、もう授業が終わっているよ。お昼食べようよ。」

友人の声を聞いて時計を見ると、時計は12時30分を回っていた。昼休みだ。

「えっ?…あっ、そうだった、ごめん。」

未央奈は教科書やノートをバッグにしまうと、お弁当箱を取り出して食べ始める。

 でも、私がどうしてこんな必死になっているのだろう?

もしかして翼君の影響なのかな?




 午後の授業が終了し、本日の授業は完全に終了した。

「皆さん、明日は体力テストです。怪我だけでなく、体操着などを忘れることなどがないように気を付けてください!」

そう告げると、担任教師は教室を出ていき、職員室を目指して歩き去っていった。

「そういえば近い日に体力テストをやるとか言っていたな。」

「俺、自信ないのだけど…」

担任教師がいなくなった教室で生徒たちが喋り始める。そんな中、翼だけは荷物をまとめて静かに教室を出て行った。

「あいつ…まさか明日の体力テストも…。できもしない癖にガチ勢の馬鹿だぜ…」

翼の後ろ姿を見て文哉が一人で嘲笑う。




 その日の夕方。家に到着した翼はすぐに学生服からジャージに着替え、ジョギングを開始した。

「明日の体力テストがあるから良い結果を残さないと!」

翼は少しずつ走るペースを上げていく。曲がり角を曲がろうとした瞬間だった。

「キャッ!」

「うわっ!」

翼は曲がってきた一人の美少女とぶつかり、尻餅をついてしまった。

「あっ、ごめんなさい。」

「いえいえ、僕のほうこそ…すみません…」

翼がぶつかった相手に謝ると、相手も申し訳なさそうに翼を見つめる。ぶつかった相手はなんとクラスメイトの立花未央奈だった。翼はぶつかった相手が未央奈だと気づき、顔を赤らめながらも声をかける。

「ご…ごめん…。み……未央奈さん…ケガはない?」

「うん。大丈夫だよ。怪我も何もしていないよ。翼君は大丈夫?」

どうやら未央奈もぶつかった相手が翼だということに気づいたようだ。

「う…うん…。僕も……特に…け…怪我してないよ…」

真っ直ぐ自身を見つめる未央奈の顔が近いため、翼は恥ずかしがりながら答えた。

「そっか。それならよかった。翼君もジョギングしているの?」

「そうだよ。明日の体力テストに向けてね。」

「そうなんだ。私もジョギング中なんだ。お互い頑張ろうね!」

「あ…あの…」

何かを言いたそうな翼にジョギングに戻ろうとしていた未央奈は翼に向き直った。

「どうしたの?」

「あっ…い、いや、そ、その……ごめん。………何でもない……」

「そっか。それじゃあ…頑張ろうね!」

未央奈は笑顔でそう言うと、その場を走り去っていった。遠ざかっていくクラスメイトの美少女を見届けて翼はため息をついた。先ほど、一緒にジョギングをしないかと誘おうと思ったのだが、恥ずかしくてそれができず、後悔しているのだ。だが、こうなってしまったら最後まで一人でジョギングをするしかない。翼は気持ちを切り替えて再び走り出した。




 翌日。翼たちが最初にやるのは50メートル走だ。自分より前に並んでいた生徒たちが一人、二人と走っていき、タイムの計測を担当している先生からタイムを聞いていく。次はいよいよ、翼の番だ。

「位置について!よーい…」

ピーーッ!

ホイッスルが響き渡り、翼を含む6人の男子生徒が走り出した。翼は全力で50メートル先のゴールを目指して走っていくが、他の3人の生徒に抜かれてしまう。翼はその3人に負けまいとスピードを上げようとするが、間に合わない。結果は4位でタイムは8秒6だった。「…みんなが……こんなに…速いなんて……」

翼はため息をついた。その時、未央奈が笑顔で駆け寄ってきた。右手にはスポーツドリンクが入ったボトル、左手にはタオルが握られている。

 もしかして、僕のために持ってきてくれたのか?

そう思って翼も未央奈に笑顔を向けるが、未央奈は翼を通り越していき、翼と一緒に走り、一番早くゴールした一人の男子生徒の前まで行って止まった。

「お待たせ。お疲れ様!」

「ありがとう。」

それは翼や未央奈のクラスメイトで学級委員長も務めている千葉文哉だった。

「文哉、タイムは何秒だったの?」

「俺のタイムは6秒6だよ。」

「そっかぁ。私、7秒9だった。すごいね、文哉。」

「俺にかかればこれくらい当然だ。」

そう言うと、文哉は一瞬だけ翼に視線を向けて鼻で笑い、すぐに未央奈の方を向き直った。翼のことを馬鹿にしているのだ。それは翼にもわかっていた。

悔しいけど、僕らのクラスの学級委員長である千葉文哉はすごい奴だ。運動神経抜群であるだけでなく、成績も優秀だ。僕も文哉みたいにすごい奴になれるのだろうか?いや、ならなくてはならないんだ。50メートル走は駄目だったけど、他の種目では必ず良い結果を出してみせる!




 しかし、上体起こしも立ち幅跳びもハンドボール投げも悪くはなかったが、どれも平均レベルだった。翼は結果が記録された紙を悔しそうに見つめる。

「結局普通だったか…」

そう呟いて体育館から教室に戻ろうと歩いていた時だった。

「えぇっ?それマジかよ?」

「ああ。前に文哉本人から聞いたんだけど、文哉と未央奈の二人付き合っているんだって!」

それを聞いて翼は驚きのあまり腰を抜かし、その場で尻餅をついてしまった。突然尻餅をついた翼に話し合っていた男子生徒が不思議そうに見つめる。

「どうしたんだ、高井?」

「急に尻餅ついて…大丈夫か?」

翼は頷いて誤魔化すと、ゆっくりと立ち上がって教室を目指して走り去っていった。




 未央奈には彼氏がいること、その彼氏が自分のクラスの学級委員長を務めている千葉文哉であることを知り、翼はショックを受けていた。

 平凡すぎて冴えない自分を変え、未央奈さんにすごいと言われたいと必死だったのに!体操着から学生服に着替えた翼は落ち込んだまま教室を後にした。

 僕は成績優秀で優しい未央奈さんが好きだけど、諦めなくてはいけないなんて…かなりショックだな。でも、今の自分を変えれば今までの環境より少しはマシだろうな。

そう考えた翼はこれからも自主練などに励むことを決意した。平凡すぎる自分自身を変えるために。




 翼が一人で下校している一方、文哉と未央奈も二人きりで下校していた。

「今日の文哉、すごかったね!どれもクラスで一番じゃん!」

「フフフ…ありがとう。正直自分の才能が怖いぜ。」

文哉は不敵な笑みを浮かべて答える。

「未央奈だって結構頑張っていたし、すごいと俺的には思うぜ。」

「えっ?あ…う、うん…ありがとう…」

文哉は上から目線だ。そう感じながらも未央奈は笑顔を作って対応する。その時、一人の男子生徒が二人の前を通り過ぎて行った。クラスメイトの翼だ。

「あっ…」

未央奈は翼に気づいたが、翼は未央奈と文哉に気づかずに歩き去っていった。

(翼君何かあったのかなぁ?落ち込んでいるみたいだけど、どうしたのだろう?)

何があったのかはわからないが、翼が落ち込んでいるのは未央奈にもわかった。

「どうしたんだよ、未央奈?さっきからあいつのことを見つめちゃって…」

「べ、別に…何でもないよ…そんなことより早く行こうよ。」

未央奈は文哉の右手を引っ張っていく。文哉は手を引っ張られながら翼の後ろ姿を睨みつけるのだった。




 体力テストから数日が経過した。翼は誰もいない教室で一人教科書やノートを見直していた。朝一番に登校して期末試験の対策を一人で行っているのだ。そんな翼の様子を一人の生徒が見ていたが、翼は試験対策に夢中になっていたため、その生徒の存在に気づくことはなかった。

「国語は漢字も出るとか言っていたからそれも覚えておかないとね。」

その時だった。

「おはよう、翼君!最近登校するのが早いね!」

振り向くと、未央奈が立っていた。

「お、おはよう…未央奈さん…。ちょっと期末試験の対策をしようと思って…」

「それで最近早く来ていたんだ。」

未央奈は荷物を自分の席に置くと、誰も座っていない翼の隣の席に座る。

「良かったら私も一緒に勉強してもいいかな?」

「えっ?」

突然すぎて翼は驚きを隠しきれない。その時だった。

「未央奈、こんなところで何をしているんだよ?」

ちょうど教室に入ってきた文哉が歩いてきて未央奈の右手を掴む。

「なんでこんな奴なんかと…」

「別にいいじゃん。一緒に勉強するくらい…」

文哉は次に翼を睨む。

「お前、俺の彼女に何をしようとしているんだよ?」

「違う。僕はただ一緒に勉強してもいいのか聞かれただけで…」

「そんなこと知ったことか。大体お前のような凡人なんかが努力したって何も変わらないんだよ。体力テストの時だって結果はどれも平均レベルだったじゃないか!とっとと諦めちまえよ!」

そう言うと文哉は未央奈の手を引っ張って翼の元から歩き去っていった。

 凡人なんかが努力したって何も変わらないだって?

翼はむっとした表情で文哉の後ろ姿を睨みつけるが、言い返さないことにした。自分が凡人であることはある意味では間違ってはいないと考えたからだ。




 文哉と未央奈は廊下に出た。

「文哉、今のは流石に酷いよ!翼君は頑張っているのに!」

「うるさい!努力したって変わらないものは変わらないものなのだよ!お前の彼氏である俺は凡人のあいつなんかと違って優秀でスポーツ万能なのだからどうだっていいだろ?なんであいつのことなんか忘れちまえよ!」

それを聞いた瞬間、未央奈の平手打ちが文哉の顔面に直撃した。未央奈は常に自分以外の誰かを馬鹿にするような口調が目立つ文哉に嫌気がさしていたのだ。

「文哉、あなたって最悪最低な学級委員長ね!もうこれ以上付き合っていられない!」

未央奈は怒った表情で教室に向かっていく。

「おい、ちょっと待てよ!」

文哉は不満そうな表情で未央奈を追いかけていき、右肩を掴む。

「なんでそうなるんだよ?意味が分からないんだけど!」

「成績優秀ならなんでこうなったのかくらいわかると思うけど、わからないなんてどういうこと?」

未央奈は文哉を睨みつける。

「俺が知るか、そんなこと!とにかく俺と別れるなんて却下だ!」

「私の彼氏なら…私はどうしたいのかとか考えているのかをしっかり理解しなさいよ!もう知らない!」

未央奈は再び文哉を平手打ちで叩き倒し、涙を浮かべながら教室に入っていった。




 教室に入っていった未央奈は翼の隣の席に座る。

「ごめん。改めて一緒に勉強してもいいかな?」

「もちろん。授業が始まるでやろうか。」

翼と未央奈は一緒に教科書や授業で使用しているノートを読み始める。

「翼君、数学のワークってどこまで進んだ?」

「僕は一応範囲のところまでは進んだよ。だからこれからは繰り返し取り組もうと思って。」「そっか。結構頑張っているね。」

「そ、そう?でも、本番の結果はあまり良くないけど…」

そう言って肩を落とす翼。

「結果はあまり良くなくても私は……」

何かを言いかけた未央奈の言葉を聞いて翼は顔を上げる。

「えっ?」

「あっ、ご、ごめん。何でもない。とにかく期末試験で良い結果を出せるように一緒に頑張ろう!」

「う、うん。」

 誰もいない教室で期末試験の対策を二人きりでやっている翼と未央奈を文哉が妬ましそうに廊下から見ていたが、二人は期末試験の対策に集中していたため、文哉のことを見向きもしなかった。




 国語の授業中。教卓の前で担任教師が説明を翼と未央奈は真面目に聞き、ノートにメモを取っていた。その一方で文哉は翼と未央奈を睨みつけていた。先程のことで翼と未央奈に恨みを抱いているのだ。だが、元はと言えば文哉が翼に傲慢な態度を取ったことから始まっているので明らかに逆恨みだ。

「おい、千葉。」

隣の席の男子生徒に声をかけられて文哉は隣の席に視線を移す。

「噂で聞いたのだけど、お前未央奈に嫌われたのだろ?何があったのだよ?」

隣の席でへらへら笑っている男子生徒を見て文哉はつい殴り倒してしまう。明らかに八つ当たりだ。突然殴られた男子生徒は椅子から転がり落ち、気絶してしまった。

「どうかしましたか?」

「いいえ、ちょっとぶつかってしまっただけです。」

男子生徒が気絶したことに気づいた担任教師に文哉は誤魔化す。

「そうですか…。気を付けてくださいね。」

「はい、すみません。」

文哉は殴り倒した男子生徒を席に座らせる。やがて、殴り倒されて気絶していたクラスメイトの男子が目を覚ました。

「千葉…お前…」

文哉はその男子生徒の話を遮るかのように相手の口を右手で塞ぐ。

「それ以上言ってみろ…どうなっても知らないぜ…」

それを聞いて男子生徒は黙り込んだ。文哉も授業に戻る。




 授業を終え、翼は帰りの支度をしていた。帰りの支度が済んだ時、

「翼君、ちょっと待って。」

隣の席の未央奈が声をかけてきた。

「どうしたの、未央奈さん?」

「あのさ、この後私の家で一緒に試験対策をしない?」

「いいよ。というか部活動とかやっていないから、基本的放課後は空いているよ。」

そのやり取りを離れたところで聞いていた文哉の表情が怒りで歪んでいく。

「高井翼ぁ……」

文哉は翼と未央奈に気づかれないようにこっそりと後をつけ始めた。

 文哉は一体何をするつもりなのだろう?




 翼と未央奈は二人きりで未央奈の家を目指して歩いていた。

「未央奈…」

「えっ?」

未央奈の名を呼ぶ声が聞こえ、翼と未央奈が振り返るが、そこには誰もいない。

「今、誰かが私を呼んだよね?」

「うん。僕にも聞こえたよ。誰かが未央奈さんを呼んだ。」

しかし、誰もいない。どうやら気のせいのようだ。

「行こう、翼君。」

翼と未央奈が正面を向いたとき、一人の男子高生の姿が見えた。クラスメイトの千葉文哉だ。

「未央奈、どうしてそんな奴と?」

文哉は未央奈にゆっくりと近づいてくる。

「どうしてそんなただ真っ直ぐなだけの馬鹿と?前みたいに俺と付き合ってくれよ。」

「悪いけど、私は…」

未央奈の言葉が終わらないうちに文哉は未央奈の右手首を掴む。

「いいから俺と一緒に来いよ!」

文哉は未央奈をどこかへ連れて行こうとする。

「ちょっと、やめてよ!痛い!」

「や、やめろ!未央奈さんが嫌がっているじゃないか!」

翼は未央奈を助けようと、文哉の左手首を掴むが、次の瞬間、強い衝撃を受けて尻餅をつく。文哉に殴られたのだ。

「やめろってなんだよ!俺は……俺は…」

文哉は翼の胸ぐらを掴んで翼を立たせる。

「お前みたいな凡人が未央奈に近づくのじゃない‼」

文哉はさらに翼を殴り倒す。文哉に殴られた翼はゆっくりと立ち上がった。どんどん怒りが膨らんでいく。

「いい加減にしろよ……このクズ野郎!」

翼は文哉の顔面を殴りつける。殴られた文哉はよろめくが、翼は怒りに任せて容赦なく文哉を痛めつけていく。

「真面目にやっている人を馬鹿にして…そんな態度が原因で未央奈さんと別れることになって…それでも直そうとせずに未央奈さんを強引に彼女に戻そうとして…ふざけるな!」

「お前…」

翼に殴られた文哉はゆっくりと立ち上がって翼を睨みつける。

「自分が未央奈さんの彼氏に相応しいと思うのなら彼女のことをしっかり考えろ!」

翼に怒鳴られ、文哉は謝罪もせずにその場から歩き去っていった。その時の後ろ姿はまるで失恋して泣いている男子高生のように見えた。




 文哉を退けた翼は未央奈の方を向き直った。

「未央奈さん、大丈夫?」

「私は大丈夫。翼君は大丈夫?」

「う…うん。ごめん、かっこ悪い姿を見せちゃったね。」

そんな翼に未央奈は抱きついた。

「えっ?」

突然すぎて翼は驚きのあまり凍り付き、持っていた荷物をその場で落としてしまう。

「翼君、助けてくれてありがとう。私…何事にも真面目に一生懸命頑張っている翼君が好きだよ!」

「えっ?こ、こんな凡人の…僕を…」

未央奈は翼の言葉を遮るようにキスをする。

「凡人なんかはどうでもいい。何事にも頑張っている翼君のこと、私は大好きだから!」

それを聞き、翼も顔を赤らめながら未央奈を抱きしめる。

「ありがとう。僕も…成績が優秀で、優しくて、可愛い未央奈さんが好きだよ…」

抱き合っている翼と未央奈は笑顔でお互いを見つめ合う。

この日から二人は晴れて付き合うようになるのだった。




 数日後。

「翼君、今日返却された数学の期末試験何点だった?」

「僕は満点だった。」

「凄いじゃん!私も満点だよ!」

翼と未央奈がお互い点数を言い合うと、数学教師が話に入ってきた。

「数学で満点をとれたのはこの二人だな。」

「やったぁ!私たちすごいね、翼君!」

「試験対策やってよかったよ!」

それを聞いて二人は抱き合って喜んだ。




 まさか僕がクラスのマドンナの未央奈さんと付き合っているなんて今でも驚いているよ。冴えない凡人だったけど、今となっては成績も優秀だ。でも、これからは色々なことが起きるだろう。でも、僕は頑張って乗り越えて見せる…!彼女と…未央奈さんと共に…!

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