第77話
「この国は僕がもらいます」
『捕えろ』というヴァンの一言でシェイメイ帝国の兵たちが会場に入ってくる。
国王と王妃やウィリアムは引き摺られるように会場を後にしていく。
彼らがこの後どうなってしまうのか。
コレットは知らない方がいいだろう。
コレットはヴァンに腕を引かれて王座への階段を登っていく。
今はヴァンについてくしかないとコレットはエスコートされるがまま足を進めた。
取り残された貴族たちや来賓客たちは戸惑っているが、ヴァンは切り替えるようにパンパンと手を叩き注目を集める。
先ほどとはまったく違う明るい声色が会場に響いた。
「改めましてヴァン・シェイメイです。この国は妻、コレットと僕が生まれた大切な故郷です。今と変わらない生活を約束しますので皆さんは安心してください」
「……ヴァン」
「ご存知の方もいるかもしれませんが僕の父はエヴァリルート国王、母はシェイメイ帝国の人間です。本当の名前はシルヴァン……エヴァリルート王国の第一王子として生まれました」
ヴァンは今日からエヴァリルート王国がシェイメイ帝国の支配下に置かれることになることを説明した。
先ほどのことがあったからなのか誰も反発の声を上げるものはいない。
そしてどこにいたのかシェイメイ帝国の従者たちが会場に入り、一人一人に紙を配っていく。
今はエヴァリルート王国の全土の貴族たちが集まっているからだろう。
建国記念パーティーは説明会場のようになりつつあった。
余程いい条件を提示されているのだろうか、それともヴァンのことを恐れてなのか、声を上げて反発する者は誰もいなかった。
これを見るとヴァンが前々からかなり入念な準備を重ねていたことがわかる。
恐らく道端でコレットと出会わなくても、ヴァンはこうするつもりだったのだろうか。
コレットがぼんやりと会場を眺めているとヴァンから声がかかる。
「コレットがいなければ、もっと血生臭いことになっていたと思いますよ?」
「…………!」
「コレットが僕を変えてくれたんです」
そう言って手の甲に優雅に口付けた。
ヴァンにはコレットの気持ちはすべてお見通しのようだ。
コレットの心境は複雑だった。
ヴァンはどんどんと先に進んでしまうような気がして寂しさを感じていた。
正体を隠されるのは二度目だ。
いつも大切なことを教えてくれないヴァンになんだか悔しい気持ちが湧き上がってくる。
コレットは少し仕返しをしてみようと口を開いた。
「どうかしら……わたくしはなんの取り柄もないし、何よりあなたは隠し事ばかりで本当に愛されているのかわからないもの」
少しやり過ぎかと思ったが、チラリとヴァンの様子を見ると今までにないくらいに表情は固くなり青ざめていることに気づく。
「ヴ、ヴァン……?」
「どうすればコレットに信用してもらえる?そうだ。僕の気持ちをわかってもらえるように指を切り落として……もういっそのこと命でも」
「~~~ッ!?!?」
どこから出したのか小さなナイフを自分の首に突きつけるヴァンを見てコレットは驚いていた。
どうやら冗談ではないようだ。
その証拠にメイメイとウロも焦っているのか、ヴァンの体にしがみついて腕を押さえている。
首を横に振りながらコレットに縋るような視線を送っているではないか。
まさか自分が言った冗談でヴァンがここまで取り乱すとはまったくの予想外である。
「コレットに愛されない人生なんて……何の意味もありません」
「ヴァン、やめて……!今のは冗談で何もできない自分が悔しくて……!だからヴァンのことはちゃんと愛しているから!」
コレットはヴァンを止めようと必死だったが、カランカランとナイフが落ちる音が聞こえた。
ウロは素早くナイフを拾い上げる。
「本当ですか?」
「えぇ、本当よ!ごめんなさい、少し寂しくて……」
「今度からは絶対に不安にさせるようなことはしませんから」
コレットはヴァンに包み込まれるように抱きしめられる。
見上げるとヴァンは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
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