第68話

コレットが必死に訴えかけると、ヴァンはキョトンとした後に嬉しそうに微笑んでいる。



「ありがとうございます。コレットが僕の心配をしてくれるなんて僕は幸せですよ」


「もう……ヴァンは冗談ばかり言って」


「冗談ではありませんよ。コレットがいなければ、あの人たちをこの場で斬り殺しているでしょうから」


「…………!」


「そうしていたら、さすがに問題になりかねませんからね」



ヴァンはそう言って唇を歪めた。

コレットがいなければ、復讐を果たすために本気でそうしようとしていたのかもしれない。

コレットはヴァンの冷たい手を握る。

ヴァンの気持ちが落ち着くように、幸せな未来を掴めるように動くことがコレットの恩返しだと思った。



「でも、もうヴァンはそんなことをしないでしょう?」


「……え?」


「だってわたくしを幸せにすると、守ってくれると約束したんだもの」



そう言ってコレットはヴァンの手を指に絡めるようにして力強く握った。

ヴァンは目を見開いた後にコレットを優しく抱きしめている。

恥ずかしかったけれど、そうでなければ彼がコレットを置いて離れて行ってしまいそうで怖かった。


メイメイやウロから「コレット様が一緒にいるようになってから、ヴァン様は別人のようです」と教えてくれた。

シェイメイ帝国ではほとんど感情が動くことなく、冷酷なことから皆に恐れられていたと聞いて驚いていた。

メイメイやウロも気軽に話しかけられないほどだったそうだ。


それが一転、よく笑うようになり、コレットと一緒に食事をキチンと食べたりと楽しそうにしている姿を見ていると、夢でも見ているのではないかと思うほどに信じられないと語ってくれたことがある。

ヴァンがコレットと一緒にいることで感情を取り戻していくようだと。


コレットはメイメイやウロのそんな話を大袈裟だと流していたし、ヴァンがコレットを必要とする言葉も同じように思っていた。

自分にそんな価値があるはずがない、と。

だけど、こうしてみるとヴァンは本当にコレットを必要としてくれているのだとわかる。



「わたくしはヴァンを信じているわ。わたくしとずっと一緒にいてくれるのでしょう?」


「はい、もちろんですよ……コレット、ありがとう」



ヴァンに寄り添いながら、国王に挨拶をするために順番を待っていた時だった。



「……嘘だろうっ!?コレット、なのか」


「なっ、なんでこんなところにいるのよ!?」


「どうしてここにっ」



聞き覚えのある声に名前を呼ばれてコレットは振り返る。

そこには驚き目を見張るミリアクト伯爵と夫人、そして眉を吊り上げてこちらを睨みつけるリリアーヌの姿があった。

その隣には何故か顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうなディオンがいる。


(やっぱり……こうなってしまったわ。でももうわたくしはこの人たちの家族じゃない)


今までは萎縮して黙ってばかりいたコレットだったが動揺することなく、ミリアクト伯爵家を無視するような形でヴァンに視線を戻した。



「ど、どういうつもりだ!我々を無視するとはっ」


「説明なさいっ!何故この場にあなたがいるのよ!おかしいでしょう!?」


「何よ……!なんなのよ、そのドレスはッ!信じられないっ」



どうやらコレットが無視したことが気に入らないミリアクト伯爵と何故、建国記念パーティーの場にいるのか気になっているミリアクト伯爵夫人。

リリアーヌはコレットの一目でわかる高級なドレスやアクセサリーの数々を見て嫉妬心がむき出しになっている。

明らかに伯爵家にいる時よりも艶やかな肌と髪。

自分より美しいドレスを着ているコレットが気に入らないらしい。


だが、ミリアクト伯爵家はコレットには関係ない。

コレットの家族はヴァンだけで今は他人なのだ。


そんな態度が気に入らなかったのか、ミリアクト伯爵と夫人が顔を思いきり歪めた。

こちらに歩いてきてコレットの肩を掴もうと手を伸ばした時だった。

メイメイとウロがすかさず間に入り父にナイフの先を向ける。


その瞬間、会場はザワザワと騒がしくなり、こちらに視線が集まっているのがわかった。


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