第66話


紫色の瞳がコレットを愛おしそうに見つめている。



「なんて美しいんでしょうか……素敵です。コレット」


「ありがとう、ございます」


「こうしてずっと眺めていたいですが、そろそろ行かないと遅れてしまいますね」



なんとなく照れくさくて、こちらまでつられて敬語になってしまう。

そのまま髪を撫でたヴァンはエスコートするために腕を曲げる。

コレットは手を伸ばしてヴァンの逞しい腕に添える。


準備をしてくれたメイメイにお礼を言ってからコレットは歩き出す。

彼女はぺこりと頭を下げた後に二人の後に続いた。

どうやら護衛としてこのままウロと共に同行することになっているそうだ。


いつもの侍女服ではなく、ヴァンが着ているシェイメイ帝国の伝統服よりもシンプルな黒い服に身を包んでいる。

その後ろにも五人ほど、口元を隠した体格のいい護衛が一緒にパーティーにくるそうだ。

コレットがヴァンと馬車に乗ると、馬に乗った護衛が前に二人、後ろに二人、あとは馬車に乗って待機している。



「随分と厳重なのね」


「一応、多めに用意したんです。処分する明確な理由は必要でしょう?」


「処分する理由……?」


「選択するかは彼次第だったんですけど、見事に引っかかってくれそうですよ。そんな愚かなことをしたら今度こそ終わりだというのに」


「……?」


「コレットは何も心配する必要はありませんから」


「ヴァンはいつもそればっかり……わたくしにもできることがあれば手伝うわ」


「気持ちだけで十分です。コレットには今まで苦労してきた分、笑っていて欲しいんですよ」



もうすぐ森を抜けるというところで、馬に乗り先導していた二人が足を止めるように声をかける。

御者がヴァンに『囲まれています』と小窓から顔を出して呟いた。



『愚かだな……すぐに捕らえろ』


『かしこまりました』



コレットが心配そうにしているとヴァンは優しくコレットの体を抱きしめて「暫く待っていてくださいね」と言って笑った。

なるべく音が聞こえないようにするためなのか、ヴァンはコレットを抱きしめて耳を塞いでいるのは気のせいではないだろう。

コレットはヴァンの胸に耳を当てて心臓の音を聞きながら待っていた。

時折、聞こえる重たい音と金属が打つかる音が遠くで響いているような気がした。



『ヴァン様、終わりました』


『一人残らず縛り上げろ。すぐ行く』



黒い布に覆われて目元しか見えない護衛が扉から顔を出して答えた。

コレットはメイメイやウロが心配になり窓から覗き込もうとするが、そんなコレットの行動を見越してか、外を見られないようにヴァンは手早くカーテンを閉めてしまう。

コレットが抗議しようとすると馬車の扉からメイメイとウロが顔を出す。



「メイメイ、ウロ!他の皆も無事なの……?」


「無事です」


「問題ありませんよ」



後ろ手に血まみれの武器が握られているとも知らずにメイメイとウロのいつも通りの声色にコレットはホッと息を吐き出した。

メイメイはウロに何かを渡すと、ヴァンと入れ替わるように馬車の中へ。

ヴァンは「確認したいことがあるので、コレットはここで待っててください」と言い残してウロと共に馬車を降りてしまう。



「メイメイ、何があったの?」


「必要があればヴァン様の口から説明すると思います」


「……そう」



何故、このタイミングで襲われたのかとても聞ける雰囲気ではない。

コレットはもしかして、フェリベール公爵やミリアクト伯爵が関わっているのではないかと思い、心臓がドキドキと音を立てる。



「メイメイ、この件はもしかしてわたくしのせいじゃないのかしら」


「違います。これもヴァン様の策略のうちですから心配なさらないてください」


「…………そう」


「髪が乱れてしまいましたね。ヴァン様もすぐに戻るまでに整えましょう。少々お待ちください」

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