第37話 リリアーヌside7
もうすぐパーティーがあるからと、その日のためにリリアーヌを少しでもよくしたいと両親は言ったが、リリアーヌはそんなことはどうでもよかった。
ただ、今の苦しみから逃れられたらそれでいいのだ。
困惑する両親の前で両手で顔を覆うようにして泣いているフリをした。
(はぁ……こうすれば何もやらなくていいはず。やっと休めるわ)
しかしそんなリリアーヌの考えを覆すことが起こる。
「もうミリアクト伯爵家にはリリアーヌしかいないのよ!わかってるのっ!?」
「え……?」
「医者がもう体調は問題ないと言っている以上、大丈夫なはずだ。さぁ、続けるんだ」
リリアーヌは両親を見た。
いつもの優しい表情はなく、まるでコレットに向けるような厳しい顔をしている。
母もそんな父を咎めることはなく頷いているではないか。
(おかしいわよ!こんなことは今までなかったのに……っ!)
今まで両親はすべてリリアーヌの言う通りに動いてくれていた。
ずっと自分の思い通りになっていたはずなのに、少しずつ変わっていることにこの時になって初めて気付く。
日を重ねていくうちに違和感は大きなものになっていく。
父と母は喧嘩ばかりで、リリアーヌにプレゼントをしてくれなくなった。
次第にリリアーヌの抵抗は意味がないほどに毎日毎日、講師たちと顔を合わせて興味がないことばかりを教え込まれる。
背後から聞こえるため息と「こんなこともできないなんてありえないわ!」という失望の声。
リリアーヌにとってそれは苦痛でしかなかった。
ストレスで頭がおかしくなってしまいそうになる。
(……っ、こんなはずじゃないのに!)
そしてまた一週間経ち、パーティーの日を迎えた。
リリアーヌはディオンの迎えを待っていた。
ドレスを着て出掛けることは悪くない。やっと息抜きができると喜んでいた。
公爵家の馬車はいつも豪華で素晴らしい。
乗っていると自分まで偉くなったような気分になる。
そしてリリアーヌには皆が羨むイケメンの婚約者がいる。
リリアーヌは一瞬で嫌なことを忘れてしまった。
父と母は心配そうにこちらを見ている。
やはり以前のパーティーの失敗を気にしているのだろうか。
(何よ!お父様やお母様だってコレットお姉様のせいにしていたくせに……っ!わたしだって頑張ってたんだし、大丈夫に決まっているわ)
ディオンは両親に笑顔で挨拶すると、こちらに戻ってエスコートをしてくれるかと思いきや、嫌そうにリリアーヌをエスコートしながら馬車に乗り込むとすぐに手を離す。
リリアーヌは気のせいだと言い聞かせていたが、馬車の中でディオンに話しかけても無反応だったことで明らかな変化を感じていた。
「ねぇ、どうしてわたしに冷たいの!?」
「はぁ……めんどくせぇ女だな」
リリアーヌはディオンの暗い表情にビクリと肩を跳ねさせた。
「コレットは頭のいい女だったから油断できなかったが、お前の前で取り繕っても意味ないしな。どうせ何もできないだろう?」
「なっ……!?」
あまりの衝撃に声すら出なかった。
別人のようなディオンの姿に空いた口が塞がらない。
しかし次第に言葉の意味を理解するのと同時に怒りで頭がおかしくなりそうになる。
「こんなことお父様とお母様に言ったら……っ!」
リリアーヌがそう言うことを見透かされていたようにディオンは唇を歪めて意地悪そうに笑った。
「ははっ!困ったら全部お父様とお母様に言うなんて笑っちまうぜ」
「は…………?」
「やっぱりお前を選んでコレットを追い出して正解だった。馬鹿で助かる」
ディオンの言葉に苛立ちを隠せない。
「どういうこと……?」
心の中の声が口から漏れていたようだ。
ディオンはクツクツと喉を鳴らしながら答えた。
「コレットは俺のことを常に疑っていた。少しでもミスをしたら証拠を掴んで、父上や親に報告していたんじゃねぇか?」
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