第34話
「行く場所がないのならずっとここにいていいんです。僕は……コレットがそばにいてくれるためだったらなんだってする」
絶対に逃さない、そんな力強さを感じさせる。
しかしコレットは今までの家族から受けた扱いのせいで、すっかりと自信をなくしていた。
(わたくしはヴァンにこんな風に優しくしてもらう資格はないわ……何もせずにいていいなんて、甘えていたらダメだわ)
ヴァンはコレットの中にある大きな不安を理解していたのかもしれない。
「……コレットにはまだまだ時間が必要ですね。あなたが満たされるまで、僕はコレットを甘やかそうと思います」
「わたくしを、甘やかす?」
「僕は今度こそコレットを守り、幸せにすることを誓います。どうか僕のそばにいてください」
左手の薬指にヴァンの唇が触れた。
まるでプロポーズしているようだと思った。
肩を跳ねさせるコレットを気にすることなく、コレットをまっすぐ見つめている。
「コレット、これからは僕のことだけを考えてくれればいい」
「……!」
ヴァンの力強い言葉にコレットは気づいた時には小さく頷いていた。
満足そうに笑ったヴァンを見てハッとする。
「ヴァン……わたくし、このままだと勘違いしてしまうわ」
「どういうことですか?」
「そ、それは……ヴァンがわたくしのことを……好きなんじゃないかって、思ってしまうから」
尻すぼみに小さくなっていくコレットの声に、ヴァンもいつのまにか部屋に戻ってきたメイメイも、一緒にいるウロも目を丸くしてこちらを見ている。
ヴァンの言葉を待っていると溜め息が聞こえた。
そして「ここまでわかってもらえていないのは正直、驚きです」と言っている。
(わたくしったら、やっぱり勘違いをしていたのかしら)
コレットが恥ずかしさから頬を押さえていると、ヴァンの存在をすごく近くに聞こえた。
ヴァンはコレットの手首を掴んで引き寄せた。
「あなたが好きです。コレット」
「……!?」
「成長して、すべてを手に入れた今なら伝えられます。あなたを愛しています」
「ヴァンが、わたくしを……?本当に?」
「はい、そうです。あの時から僕の気持ちが変わったことはありません。ずっと……ずっとコレットを思い続けていました」
ヴァンは呆然としているコレットの額に口付けた。
「これで僕の気持ちが伝わりましたか?」
コレットが顔を真っ赤にしてワナワナ震えていると、ヴァンは困惑しながらも呟いた。
「まさかここまで言葉を噛み砕かないと、コレットに何も伝わらなかったなんて驚きです」
「どうして……?」
「僕はコレットを愛しているから、こうしているんですよ?」
「で、でもわたくしはこんなことしてもらう価値は……!」
ヴァンはコレットの唇を塞ぐように唇に人差し指を当てる。
「それは僕が決めることです。それに〝わたくしなんか〟なんて言わないでください。悲しくなります」
「……!」
「わかりましたか?」
コレットがゆっくりと頷いたのを確認したヴァンは唇から指を離す。
それからヴァンは確認するように問いかける。
「コレット、ゆっくりでいいので僕がいない間のことを教えてください。コレットがアイツらをどう思っているのか気持ちを聞いておきたいんです」
「……!」
「無理ならば、また今度で構いません」
ヴァンのこの言葉を聞く限り、コレットのことを気遣い心配してくれていたのだとわかる。
コレットは瞼を閉じてから深呼吸をして頷いた。
ヴァンとは以前と同じように、何でも話したいと思う。
コレットはヴァンに話を聞いてもらうことで救われたのだ。
(ヴァンはわたくしのことを知っていると言っていたけど、どこまで知っているのかしら)
コレットはヴァンにまず何から伝えようか迷っていた。
話したいことはたくさんあるけれど、まずは自分があの場所で倒れていた経緯を話すことにした。
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