第8話
ディオンはコレットが誰と繋がっているのかわからないため、外で身の振り方を考えて動いている。
アレクシアとエルザに無理のない範囲で協力を求めたが、ディオンは派手な素行は控えているようだ。
ディオンと婚約する前までは、ずっと体調が悪いと言い張っていたリリアーヌだったが、コレットがディオンと婚約してすぐにリリアーヌの体調は次第に上向きになっているそうだ。
それはディオンに色々な話を聞いて外に行きたいという気持ちがでできたからかもしれない。
「それでね、ディオン様がわたしと出かけたいって言ってくださったの!」
「…………そう」
「ディオン様は本当に素敵!色々知っているし……そうそう、昨日はわたしを〝美しい〟って褒めてくれたのよ」
コレットの婚約者であるディオンと仲睦まじく話したことを楽しそうに話すリリアーヌ。
自慢しているような口振りにコレットは薄ら笑いを浮かべるしかなかった。
本当はもっと前、正しくはコレットが婚約する前からリリアーヌの体調は良くなっていたことを知っていた。
両親や周囲の同情を引いて、居心地のいい場所を作るために、ずっと具合の悪いフリを続けているようだ。
それに都合が悪くなるとすぐに体調が悪くなる。
もうリリアーヌの咳が出ていなくて何年経つだろう。
熱も出ておらず、薬も飲んでいない。
食事だって、お菓子だって、残さず食べているではないか。
侍女も執事も両親も、絶対的な信頼をリリアーヌに寄せている。
彼女はベッドの上からミリアクト伯爵家を支配していた。
今はそれでいいのかもしれないが、この先の成長は見込めない。
リリアーヌは何もできないままだ。
両親や侍女たちはそのことに気づかずに彼女を甘やかし続けている。
狭い狭い檻の中で女王様になったところで何も意味はない。
(リリアーヌはずっとここで生きていくつもりなのかしら)
コレットはそんなリリアーヌをもう『羨ましい』とは思わなかった。
けれど何もかもを諦めて、そんな人たちに従っている自分が一番嫌いだった。
毎日、朝起きると心の中でこう問いかける。
『本当にこのままでいいの?』
しかし答えは出ない。この家を出てしまえばコレットは無価値になってしまう。
それが怖かったのかもしれない。
そしてディオンに影響を受けたのか、リリアーヌは初めて社交界に出ることを決めた。
昼の部は貴族の令息令嬢達が集い、夜は大人たちが参加する。
国中の貴族たちが集まる盛大なパーティーだ。
「皆、リリアーヌの美しい姿に感動するだろう」
「わたしも素敵な王子様に出会えるかしら」
「きっとリリアーヌを見初めてくださるわ!会場で注目されるわよ」
「ふふっ、楽しみだわ!」
両親はリリアーヌのために、それはそれは豪華なドレスを用意した。
煌びやかなドレスを纏い嬉しそうに微笑むリリアーヌを見て、皆が感動から涙している。
コレットとは真逆で、リリアーヌの表情は希望に満ちて輝いていた。
公爵家の馬車で迎えに来たディオンは、リリアーヌの姿を見て目を見開いた。
「リリアーヌ……!とても美しいよ」
「ディオン様、ありがとうございます!」
そしてディオンはコレットではなく、リリアーヌをエスコートして馬車へと向かう。
ポツリとその場に取り残されたコレットの腹部は締め付けられるように痛んでいた。
侍女がリリアーヌの支度に時間を取られたこともあり適当にドレスを着付けたこともあるが、これからあらぬ噂が流れて息が吸いづらくなると思うと足が重い。
(きっと妹に婚約者を取られたとかなんとか、面白おかしく言われるのでしょうね)
後ろからクスクスとコレットを馬鹿にするような侍女たちの笑い声と「さっさと行け」と父に言われ、「リリアーヌにずっとついてなさい」という母の声が聞こえた。
何故コレットが当然のようにリリアーヌの面倒を見なくてはいけないのか。
考えることすら面倒だった。
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