第27話
「なにするの、やめて!」
コトハは必死でドアを開けようとしているけれど、2人の生徒によって押さえられているドアはビクともしない。
「最後の仕上げは汚水だよ!」
あたしはコトハに声をかける。
青ざめた顔のコトハがこちらへ顔を向け、そして青ざめた。
信じられないといった様子で口をポカンと開けている。
あたしはその顔目がけて、バケツに溜まった汚水をぶちまけたのだった。
☆☆☆
コトハが教室を歩くと、そこから汚水の臭いがするようになった。
体操着に着替えても、シャワーを浴びても、その臭いはしつこくコトハにこびり付いている。
そしてコトハが近くを通るたびに『臭い』『汚い』『近寄るな』といった言葉が飛び交った。
コトハはいつも以上に縮こまり、自分の席からほとんど動かなくなってしまっていた。
でも、あたしはそんなコトハを見ても何も感じなかった。
だって今のクラストップはこのあたしだ。
コトハはあたしに逆らったんだから、当然イジメられるべきだった。
もしもコトハが頭を下げて謝罪してきたら、その時は許してあげてもいいけれど。
「あぁ~、誰かさんのせいで教室中臭いんだけど!」
マチコとナツコがコトハを取り囲んで大きな声を上げている。
コトハはジッと俯いて耐えている。
「こういう時ってさ、クラスメートの為に早退とかするもんじゃないの?」
「だよねぇ。なんで堂々と教室に戻って来てんの?」
マチコたちの言葉にあたしは自分がトイレに閉じ込められた時のことを思い出した。
あの時かけられたのはただの水だったから、保健室に行って着替えさせてもらったんだっけ。
だけど今回コトハは保健室には行っていないみたいだった。
そのまま帰ってしまうのかと思っていたが、なぜが教室に戻ってきていた。
コトハはなにを考えてるんだろう?
そう思い、視線を向ける。
一瞬コトハを視線がぶつかった。
傷ついているはずのコトハが、鋭い視線をこちらへ向けている。
その視線に射抜かれしまった気分になり、ドクンッと心臓が大きく跳ねた。
同時にコトハから視線を外していた。
なんなんだろう。
イジメられているくせに、どうしてあんな強い視線をこちらへ向けてくることができるんだろう。
あたしの心臓はドクドクと早鐘を打つ。
そして奥歯をギリッと噛みしめたのだった。
☆☆☆
コトハイジメが始まって一週間が経過していた。
コトハは相変わらず毎日学校へ来て、早退することもなくずっと我慢を続けている。
教室の後ろの席でジッと耐えている姿はもう当たり前の光景になってきていた。
「星羅ちゃん、勉強した?」
ナツコの甘ったるい媚びた声にあたしは雑誌から顔をあげた。
「勉強?」
「そうだよ。明日からテストだよ」
ナツコの言葉にあたしは「あっ」と小さく声を上げていた。
そういえば夏休み前の学期末テストが始まるんだった。
最近好き勝手していたため、先生の話も学校のスケジュールもすっかり頭から抜け落ちていた。
「どうしよう、全然してないや……」
「それなら一緒に勉強しようよ! 今日、星羅ちゃんの家に行ってもいい?」
ナツコの言葉にあたしはしかめっ面をした。
正直マチコやナツコを家に呼びたくはなかった。
元々自分をイジメていた相手だから、心を許したわけでもない。
でも、一人でどこまで勉強できるかもわからない。
このままだと赤点を取る可能性の方がずっと高い。
どうしようかとしばらく思案していたあたしだけれど、ふといい案を思いついていた。
そうだ。
あたしには『人格矯正メロディ』があるんだ。
これをうまく利用すればテストの点数だって取れるはずだ。
先生に聞かせて点数を貰うか、あるいは……。
あたしは頭をフル回転させながら教室内を見回した。
そしてお目当ての生徒を教室中央に見つけると、すぐに席を立った。
そこにいたのは普段全く接点のない真面目グループの3人の生徒たちだった。
みんな眼鏡をかけて、キッチリ制服を着ている。
あたしが近づいてきたことで、3人が怯えた表情になるのがわかった。
コトハがどんな風にイジメられたのか、すでに全員が知っているからだろう。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、この中で一番勉強ができるのは誰?」
あたしの質問に2人の生徒が残る1人へ視線を向けた。
当人も自覚があるようで、おずおずと片手を上げている。
「ユウカはクラスでトップだよ」
「そうなんだ。ねぇ、明日からのテストで協力してほしいんだけど」
「なに? 勉強を教えるの?」
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