チーズケーキ

上殻 点景

チーズケーキとは

「話が思いつかない」


僕こと――――――朱 仁行にとって何も思いつかないのは致命的でした。

致命的というか、オチが思いつかないともいうんだが。まあ、ネタが思いつかないとは変わりはない。この[チーズケーキ]というお題に対して何も思わないとはこの僕の目えお持ってしまっても終わっている。


「実はコレ、チーズケー・キーだったりしない」

「何を言っとるんじゃ貴様は」


脳内彼女である――――――広江凛は的確なツッコミを入れてきました。

正直、コヤツの言っていることは頭がおかしい。なんじゃチーズケー・キーって。

チーズ家に伝わる伝説の鍵か何かか。


「流石に無理があるじゃろ」

「だがそう言うとそれっぽいだろ」

「最後の伸ばし棒が無ければというところじゃ」


凛は、そう答えました。

正直、伸ばし棒が無くてもどういう話になるんじゃ。鍵をめぐって壮大な争いをするかか。王道ファンタジーじゃな。


「ならばチー・ズケーキというのはどうだ」

「どうだとは何がじゃ」

「人名ぽくなっただろ」


仁行は、そう堂々と答えました。

ズケーキは少々名前としては弱いが、それを補ってチーがいい味を出している。

よって、2つの名前が中和し、チー・ズケーキは名前として完成されていると。


「無理があるじゃろ、まだチーズ家・キーのほうがマシじゃ」

「ならば、血・イズケ記ならばどうだ」

「なかなかに文学味を感じる味じゃ」


凛は、そう納得しました。

先程までの言葉とは違い、漢字を使うところが評価が高いな。一件食べ物にしか見えないような文字も、こうなると文学じゃ。ただし血とついておるからには随分とどろどろとした話になりそうじゃ。

とも、凛は、思いました。


「という訳で今回は血・イズケ記の話を書いていこうと思うんだ」

「別に書くのは構わんが、それでこの話が通ると思うのか?」

「やはりチーズケーキで書く必要があるのか」


仁行は、落ち込みました。

自分にはチーズケーキが分からない。よく巷の女子が食べているような、話しているような、書いているような、そんな話は聞きますが。仁行には、それがなんだかわかりません。まあ、そこまでよく話に出てくるのですから、有名な場所の名前ではないかと思っています。


「だって、見聞きはすれども知らない単語だぜ。どうやって描けばいいんだ」

「ならば、単語から連想してみるというのはどうじゃ」


凛はそう答えました。正直この問答には飽き飽きしていたのですが。仁行がどうしてもというので、仕方なく付き合ってあげることにします。


「ならば、やはり地、頭、毛、木あたりが怪しいな」

「おぬしは致命的な間違いをしておる」

「何を間違ったっていうんだ」

「頭、毛、ではなく豆華ということじゃ」


凛は、訂正をしてあげました。どうしてつなげっている文字なのに別々に読んでしまうのか、凛には分かりませんでした。きっと、仁行が自分を立てるためにわざと間違えた、そう凛は後から思いました。


「ありがとう凛、僕の間違いに気づけたよ」

「それは、良いことじゃ」

「つまりこれは、地、豆華、木。地面に生える大豆のなる木ということは――――――」

「簡単な話じゃ」

「――――――枝豆の話を書けばいいんだね」


仁行は笑顔で答えました。彼の瞳に迷いはなく。自分の道が見つかったようです。

これで彼は安心して今回のお題に取り組めるでしょう。


後日、返還された小説が家に送られてきたことで――――――またひと悶着あるのは別のお話。



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