第37話 笑う恋々
走り出した恋々は、カッコいいの一言だった。
しなやかな動きで、
けれど、粒子のようにキラキラとは輝かない。ただ何もなかったかのように、消えるのだ。
「すごい。まるで恋々の一部みたい」
私が鞭を振れば、自分に当たったり、周りのものを倒したりしていた。それなのに、恋々は自由自在という言葉がピッタリなのだ。
私の編んだ鞭は、三メートルほど。恋々と相談して決めた長さだが、実際に見てみると
「キャハハハハハ。私に勝とうなんざ、一億万年早いんだよ!! 二度と現れるんじゃねーぞ。何度だって、殺してやらー!!」
楽しそうだ。完璧にキャラが変わってる。恋々は笑いながら戦うのか。うん、ちょっと怖いかも。
あぁ、引かないで。味方だから。
鞭を振り回し、二体の穢れを倒していく恋々の姿に、討伐隊の人たちは明らかに距離をとっている。
そんな仲間のことを全く気にすることなく、恋々は凶暴化した獣のみを見ている。
攻撃をしてくる手や足を鞭で打つ。打たれて消えていくのを眺めることなく、次々と鞭を振るう。そして、素早く弱点に打ち込んだ。
ぱんっ、と一瞬で散った。
そこに凶暴化した獣がいたなど信じられないほどに一瞬だった。もう一体も瞬きの間に倒してしまう。
地面に残された体だけの遺体と、飛び散った赤が異様に思えるほど、そこには何もなかった。
「花様ー! やりました!! 花様特性の武器は最強でしたよ!!」
嬉しそうに手をぶんぶんと振りながら、恋々は私のところへと戻ってきてくれる。
あと一体いた、
「恋々、ありがとう。怪我はない?」
「はい。楽勝でした。鞭って殺傷力がないから使う人はいないんです。でも、対穢れなら最強ですね」
嬉しそうに言う恋々の背中に、ぶんぶんとしっぽを振る幻覚が見える。さっきまであんなにも嬉々として戦っていたのに、まるで別人だ。
私の知っているいつもの恋々に戻っている。
「おい!!」
怒りを隠さない、感情をぶつけるかのような声がした。声がした方に視線を向ければ、まだ若い討伐隊の青年が
「やめろ! あいつも覚悟の上で参加してんだ。運が悪かった、それだけだ」
「うるせぇ!」
止めにきた別の青年を突き飛ばし、こちらに大股で近付いてくる。恋々は
けれど、戦闘以外では恋々の背中に隠れるつもりはない。私は、恋々の半歩前に立った。
「花様!?」
「私は弱いけれど、戦闘以外で
恋々はかなり渋々といった様子だが、もう一度私を背に庇うことはしなかった。
逃げられないようにだろうか、怒鳴りながら彼は私の腕を掴んだ。
加減など全くしていない力で掴まれたので、痛みに思わず顔をしかめれば、更に強い力を込められる。
「なんで、
「
突き飛ばされた青年は、必死に私の腕を掴む大と呼んだ青年の手をほどこうとしている。けれど、彼は止まらない。
「その武器なら、お前らなら、すぐに助けられたじゃねーか。この人殺し!!」
「やめろって!」
必死に止めてくれる青年に、大丈夫だからという気持ちで小さく首を振る。そして、空いている方の手を、懸命にほどこうとしてくれる彼の手に重ねた。
「ありがとう。大丈夫だから」
だって、彼の言っていることは当たっている。
鞭を使えば、助けられたかもしれない。私が強ければ、踏み出す勇気があれば、死なずに済んだのかもしれない。それに──。
「大丈夫なことなんかねーよ。お前が殺したんだ!!」
けれど、それでは何も良い方向に向かわない。
「私は確かに見殺しにしてしまった。けれど、殺したのは凶暴化した獣。そして、あなたは……大さんは、洋さんを助けられなかった。私と同じよ」
「違う! オレは討伐隊として戦っていた!!」
「それを言うなら、私たちは討伐隊ですらないわ。勝手に忍び込んでついてきたもの」
そう。私は部外者なのだ。着いてくることを認めてもらえていない。残念だけど、それが現実だ。
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