第34話 あなたを守らせて……。


「実力なら、善や悪よりも上ですよ。討伐隊に入れば、一位二位を争うくらいは戦えます。白様を除いてですが……」


 恋々は悔しそうに最後の言葉を付け加えたが、善くんとあっくんをしのぐのであれば相当だろう。

 穢れを倒せる剣を使っているのが白樹を除いてその二人なのだから、強さは折り紙つきのはずだ。

 

 それにしても、人は見かけによらないと言うのは本当なのだと改めて実感する。

 恋々は筋肉もあまり無さそうなので、予想すらできなかった。というか、話を聞いた後なのに脳がパニックを起こしている。


「見てみますか?」

「えっ?」

「私が戦うところです。花様の休憩にもなりますし、調度良いかと」

「いいの?」

「もちろんですよ」


 夏にここに来て、秋が過ぎ、冬になったというのに全く知らなかったなぁ。毎日一緒にいたけれど、いつ修練をしていたのだろう。


「恋々は、いつ修練をしていたの?」

「毎朝ですよ。日々の積み重ねが大事ですから」


 す、すごい。カッコいい……。これから戦う恋々を見られるのだと思うと、何だかドキドキする。



「そんなに強いのに、討伐に行かなくていいの?」


 武道場へと向かいながら、恋々に聞く。

 ドアを使えば一瞬で移動できるけれど、何かを作ってばかりで運動不足になりがちなため、せめて移動は歩くようにしているのだ。


「私が強くなったのは、花嫁様花様を守るためです。討伐のためではありませんから」


 その言葉に、花嫁のために生まれたという話を思い出す。生きている間に会えるかも分からない花嫁のために修練を続けるの、しんどくないはずがないよね。

 だからかな。恋々はどんなに小さな望みであろうと、私のためであれば何でもしてしまいそうな危うさがある。



 ***



「ほらほらほらほら!! それで終わりか? かかってこいや!!」


 ……目の前の血気盛んなお嬢さんは、誰かしら。


 うん、分かってるよ。恋々だって。いや、ほら現実を脳が上手く処理できないことってあるよね? まさに、今はその状況なわけで──。


 あ、吹っ飛んだ。受け身を取りながら着地をした善くんに、恋々が一瞬で追い付いた。これでもかというほどに素早い動きで刀を撃ち込んでいる。

 恋々の模造刀が何本にも見える。持っているのは一本のはずなのに……。


「腕、鈍ったか? 反撃してこいよ!!」


 わぁ、挑発してる。それに何だか楽しそうだ。笑っているように見えるのは、きっと気のせいじゃない。


「見学か?」


 白樹の声がしたが、私はそちらを見ることなく頷いた。恋々がスゴすぎて目が離せない。


「恋々って強かったんだね……」


 二刀流の善くんの攻撃をいなしながら、時々反撃をするという剣術指導のようなことへとやり方をシフトチェンジした恋々。恋々と善くんの力の差は、素人の私から見ても一目瞭然だ。


「悪も来な! 二人でかかってこい!!」


 躊躇ためらった様子を見せたあっくんだったが「弱いくせに二対一になるとか、気にしてんじゃねーよ。それとも怖いのか?」という挑発で飛び込んでいく。


「腕を大きく振り回すな。何をしようとしているのか丸分かりだ、馬鹿」


 善くんだけじゃなく、あっくんの攻撃も恋々は軽くいなしている。


「大人と子どもだな」


 そう呟いた白樹の言葉に頷きつつ、ふっと疑問が頭を過った。


「恋々がね、討伐について行くなら一緒に来てくれるって」


 白樹の顔を見るが、特に変わった様子はない。


「これだけ強い恋々がいてくれたら、討伐について行けるよね?」

「春が過ぎたらな」

「……どういうこと?」

「春は腹を空かせているから余計に残虐になる。人を食おうと近付いてくることが多い」


 つまり、危険だから春はだめだと言うことか。


「春がだめなら、夏なら良いってこと?」

「夏は暑い。体力を持っていかれて辛い季節だ。涼しくなったらがいいんじゃないか?」


「……遠足に行くんじゃないんだけど」


 まるで私が遊びに行きたいみたいではないか。

 白樹にそんなつもりがないことは分かっているけれど、もやもやする。

 私が言った『遠足』が分からず、首を捻る姿にまで苛立ちを覚えてしまう。


「白樹がいいと言うのを待っていたら、一生森には行けない」

「そんなことは……」


 ないとは言いきらないところが白樹らしい。そんな彼だから好きなのだ。

 でも、今は問い詰めさせてもらうからね。


「そんなことは、じゃないよね。恋々一人じゃだめなの? どれくらいの護衛が必要なわけ?」

「花の安全が完全に確保されないと行かせられない」

「完全なんて、不可能だよ。予測不能な出来事なんて、いくらでも起こりるんだから」


 でも、だって、と今まで見たことがないほどに白樹は煮え切らない。それほどまでに心配してくれているのだろう。

 その気持ちは心の中で有り難く受け取っておく。


「春になったら、討伐に着いていくから。そのつもりでいてね」


 白樹に相談していても連れて行ってもらえない。

 善くん、あっくん、輪さんにも相談しよう。恋々の強さを知っているだろうし、味方になってくれるかもしれない。


 ごめん、白樹。あなたが決意するのを待てなくて。


 迷惑になるかもしれないけれど、私だってあなたを守りたい。

 心配だからって、家に置いていかないで。私にもあなたを守らせて……。

 

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