第23話 神様の力
おばあちゃんの後をついて行きながら、店内を見回す。
飾りボタンやレース、ガラスビーズなど、西洋っぽいデザインのものもたくさん売られている。まるでこのお店自体が宝箱の中みたいでわくわくする。
これは絶対に何を買おうか迷うやつだ。折角だから、他にも色々と作って効果があるのか、あったとしたら違いがあるのかを試しておきたいけど、目に映る布もレースも魅力的過ぎる。決められるかな……。
でも、その迷ってる時間が幸せなんだよなぁ。気が付いたら時間が溶けてなくなってるという摩訶不思議現象に出会うことになっちゃいそう。
白樹もいるから、夢中になりすぎないように気を付けないと……。
「ほら、ついたよ。あたしゃ戻るから、ゆっくり見な」
「店主、感謝する」
「そう思うなら、たんと買っとくれ。あんたが来るのは、うんと久しぶりだろ」
そう言って、返事も待たずにおばあちゃんは行ってしまった。
「……気付いていたのか」
「
私の問いに白樹は首を横に振ると、少し懐かしむような表情で口を開いた。
「髪色と瞳を変えれば印象は大きく変わるから、そうは気付かれない。加えて、印象が変わるよう操作もしている」
「そんなこともできるの!?」
「あぁ。だから、店が出来たばかりの頃に一度だけ来たことを言っているのだろう。それも五十年以上は前だろうな。以前来た時は、店主も若かった」
そんなに昔のことなのに、気がつくの!? っていうか、昔と変わらない姿だったら、白樹の子どもだと思うんじゃ……。
一体、おばあちゃんの目に白樹はどう映っているのだろう。
「契約かな?」
「いや、契約を使った様子はなかった」
「契約を使ったとかって、自分以外の人にも分かるの?」
「分かる。俺は風鈴の音が、花は金木犀の香りがするだろ?」
なるほど、と思う。確かに白樹が契約を使うときは風鈴の音が鳴っていた。
「……ということは、浄化の力も契約なの?」
「いや、浄化の力は神からの授かり物だ」
「契約と授かり物の違いって何?」
いつまでも話ばかりしているわけにはいかないので、商品棚の絹糸を眺めがら白樹へと聞く。
糸は、単色からグラデーションになっているものまであり、種類が豊富だ。どれにしようか、どの糸も編んでみたくて迷ってしまう。
「契約は対価を支払って手に入れるが、授かる力は神だけが与えることのできるものだ」
「契約は何でもできるんでしょ?」
白樹が言っていたはずだ。そう思って聞いたのだが、言葉を探しているのだろうか、なかなか返事がない。
「俺も選んでいいか?」
「え? あ、うん。もちろんだけど……」
「感謝する」
白樹は、白い絹糸を商品棚の引き出しから取り出すと
「この色は白龍様の色だ。白は浄化の意味を持つことは花も知ってたな?」
その問いに頷く。白樹の組紐を編む時も、意味合いを意識して作った。
「契約は何でもできると説明したが、正確には
「ほぼ?」
「白龍様のお力は浄化、無力化、治癒、結界など守りや癒しに特化している。その中から花嫁に力を与えてくださる。それが契約ではできない、神からしか与えられない力だ」
「神様だけが持ってる力……」
「その中でも浄化は特別だ。無力化や結界は穢れを退けられるが、倒すことはできない。治癒は怪我を治せるが、穢れを倒すことも退けることもできない。浄化だけが穢れを消滅させられる」
花嫁が特別だという意味が、本当の意味でやっと分かった気がする。
浄化の花嫁だと白樹が慌てて四ヵ国会議をしようとした意味も。
「他の神様はどんな力を与えてくれるの?」
「他国のことはあまり詳しくはないが、西の
そう言いながら、白樹は紅い絹糸を駕籠へと入れると、青い糸を手に取った。
「北の
今度は黒い糸が駕籠へと入っていく。
「穢れを操れるって……」
「ただの言い伝えだ。俺が見たわけではない。穢れを操った花嫁は、穢れに──」
「穢れに?」
心臓の音が頭のなかで響いている。想像するだけで、怖い。悪用されたら、とんでもないことになってしまう。
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