第87話:新世代
アルビレオの乗組員のうち、僕を含めた地球人は、卵巣・精巣を切除されていて子孫は残せない。
地球人以外のメンバーは生殖能力を有しているけど、アクウァ星人のカール、アーラ星人のチアルム、ミカルド星人のアニムスは、大人になっても3人一緒で異性に恋愛する気配が無かった。
そんな中、移民団に初めての子供が生まれたよ。
父母は、猫耳と猫シッポをもつフェレス族、ベスティア星人のマヤとニア。
黒い猫耳とシッポの父マヤと、シルバータビーの猫耳とシッポの母ニアから、どんな子供が生まれるのか?
その答えは、僕たちの予想外を含んでいた。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
ベスティア星人は多産系の種族が多い。
猫耳シッポのフェレス族も多産で、5つ子や6つ子が平均的であった。
「えぇっ?! みんな毛色が違う?!」
「そうだよ。おいらたちフェレス族は、親と違う色で生まれることはよくあるんだぜ」
最初に驚いたのは、出産のサポートに来ていたレシカ。
ベッドに横たわったニアの胸から腹部まで、ズラリと並んで乳を吸う子供たち。
フェレス族は地球の猫と同じで普段は乳房の膨らみが無く、出産と共に授乳期間のみ乳房が膨らむという体型。
うつ伏せでそれに吸い付く子供たちの様子は、まるで猫の授乳風景のようだ。
その耳やシッポの色は、みんな違っている。
マヤと同じ黒、ニアと同じシルバータビーの他に、白、茶トラ、キジトラがいた。
「まるでバラエティパックみたいな子供たちね……」
レシカは驚きつつも、愛らしい赤ちゃんたちに魅了されながら呟く。
両親と同じ色はともかく、他の毛色は一体どこからきたのか?
疑問に思うレシカであった。
「ニア、お腹が空いたでしょう? 栄養のあるものを作ってきましたよ」
「ありがとう! 美味しそう~」
5つ子に栄養を吸い取られ続けるニアは食欲旺盛で、いつもの倍以上を平らげる。
たくさん食べても痩せてしまうので、アイオは栄養価が高くて食べやすいメニューを作ってあげていた。
授乳期の母親には特に必要な栄養素は、主にカルシウムと蛋白質。
ビタミンやミネラルも欠かせない。
植物質の食材は、艦内農園から。
動物質の食材は、異星で入手して冷凍保存したもの。
その他に、最近は小型の魚の養殖も始めていた。
地球の歴史では、西暦1973年にスカイラブ計画でフンジュラスというメダカの1種の魚が宇宙へ運ばれたり、西暦1994年にミッションIML-2(第2次国際微小重力実験室)の81テーマの実験の1つに愛知県弥富町産の金魚が宇宙へ運ばれたりしたことがある。
コロニーでも魚の養殖は実用化していたので、地球文明を観察し続けたアルビレオには、それほど難しいことではなかった。
トオヤたちがコロニーを出る際に渡された魚卵の中から、マアジという魚を選んでアエテルヌムのクローン技術で増産、食材化するに至っている。
「今日は、小アジの南蛮漬けを作りましたよ」
「骨まで柔らかいのね」
「丸ごと食べられるように低温でじっくり揚げたんですよ」
「酸味のあるタレが食欲をそそるわ」
「ソロル産の海藻の出汁と、ベスティア産の柑橘系果実と、地球由来アルビレオ産の調味料【醤油】と【唐辛子】を使っていますよ」
カラリと揚がって骨まで柔らかい小魚を、酸味のある甘辛いタレに浸した【南蛮漬け】は、艦内居酒屋の人気メニューでもある。
ニア用には唐辛子を少な目にしてあるが、居酒屋用はピリッとした辛さがくるように作られる。
「美味しい! これならいくらでも食べられるわ!」
喜ぶニアの気持ち良い食べっぷりを、アイオはニコニコしながら眺めていた。
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