第55話:不具合発生
アイオに何が起きたのか分からない。
起動前の人工生命体の脳にアクセスしていたアイオが、急に大きな痙攣を起こした後に動かなくなった。
代わりに起き上がって僕に近付いて来る女の子にも、一体何が起きているのか。
人格形成プログラムのインストールが済むまでは、動かない筈じゃなかったのか?
ジュリア博士たちが驚いているから、かなりイレギュラーな事なんだろう。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
アイオを横抱きにして床に座り込んでいるトオヤに、手術台から降りてきた少女が歩み寄ると、嬉しそうに微笑みながら抱きついた。
「はじめまして、トオヤ様」
「え? どうして僕の名前を知ってるの?」
教えた覚えのない名前を呼ばれ、トオヤは困惑する。
しかし、以前も似たような事があったような……と、ほんのり思い出したりもする。
「アイオの所有者データをコピーさせてもらったからです」
「……そ、それは良くない。君の所有者は違う人だ」
どうやったのかは分からないが、アイオのデータをコピーしてしまった少女。
だが彼女の所有者は別人なので、トオヤは更に困惑した。
「とりあえず、手術台に戻ってくれないか? 正しい持ち主を登録……」
「嫌です」
トオヤの言葉を、少女は即答で拒否する。
人工生命体とはいえ見た目は人間の女の子、全裸で抱きつかれているという状況にトオヤは戸惑う。
「じゃあ、せめてあのブランケットで身体を覆ってくれないか?」
「はい、分かりました」
今度は従ってくれた少女は、手術台に歩み寄るとブランケットを取って戻ってきた。
が、何かが間違ったようで、自分ではなくトオヤに被せた。
「違うよ、僕じゃなくて君の身体を覆うんだよ」
「すみません、間違えました」
トオヤが言うと、少女は一瞬キョトンと首を傾げた後、間違ったと気付くとブランケットを取って羽織った。
手術台には戻らずトオヤに身体を寄せるように座り込む少女に、その場にいた一同の困惑が続く。
「えっと、もしかして君なら知ってるのかな? 【アイオ】は君の中にいるの?」
「はい。私の人格形成プログラムは【アイオ】です」
未だ意識が戻らないアイオと少女を見比べて、何となく予感がしつつトオヤは聞く。
返ってきた答えは、予想通りだった。
「……やっぱり……。君には専用のプログラムが用意されているから、【アイオ】と交換……」
「嫌です」
トオヤの言葉を、また拒否する少女。
どうやら所有者変更関連を拒絶しているようだった。
「ジュリア博士、この子どうしたらいいですか?」
「……えっ……?」
困ったトオヤから思いついたように話を振られても、ジュリアはすぐには答えられない。
どうしたものか考えがまとまらない大人たちに代わって、子供たちがトオヤと少女の周りに集まる。
「この子、おとうさんの子になりたいんでしょ?」
「家族にしてあげたら、いいんじゃない?」
「はい、それがいいです」
「待った。僕たちだけでは決められないよ」
子供たちの提案を聞いた途端、少女が嬉しそうに笑い、再びトオヤに抱きつく。
そのまま移民団入りしそうな流れを、トオヤが慌ててストップをかける。
「……トオヤは、私の所有者になるのが嫌なんですか?」
「え?! ……そういうわけじゃないけど、君は行き先が決まっているから、そっちへ……」
「嫌です」
哀しそうな顔になり、ぽろぽろと涙を零して言う少女に、トオヤは動揺しつつ言う。
しかし本来の所有者へという内容は、やはり拒否られる。
その表情の変化を、ジュリアたち開発者はトオヤ以上に驚きつつ観察していた。
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