第54話:プログラム拒絶
ジュリア博士に案内してもらって見学した研究室には、納品準備中の人工生命体がいた。
肉体の容姿はお客の好みに合わせるそうで、【殿下】が注文した人工生命体は美しい少女の姿をしている。
手術台に寝かされた少女は目を閉じていて、意識は無いみたいだ。
衣服はまだ着せられてなくて、ブランケットがかけてある。
納品が遅延している原因は、この工場ではイレギュラーな事だった。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
甲高いエラー音が鳴る。
繰り返す不具合に、作業する人々は疲れ果てていた。
「……なんでだよ……なんで人格形成プログラムが拒否されるんだ……」
疲労困憊で髪はボサボサ、目の下にクマが出来ているスタッフが溜息混じりに言う。
この工場で作られる人工生命体には、顧客からのオーダーに沿った能力や性格が与えられる。
人格形成プログラムは、所有者好みの疑似人格を作り上げるものだった。
「アエテルヌムの方が力を貸してくれる事になったわ」
「本当ですか?!」
「ありがたい!」
研究室に入ったジュリアが告げると、スタッフの表情が一斉に明るくなる。
案内されて入ったトオヤたちの制服を見て、アルビレオ号の艦長と乗組員一行だとすぐ分った様子。
「不具合はどんな状況ですか?」
「教育系のプログラムは全てインストール完了しましたが、人格形成プログラムをインストールしようとするとエラーが出て受け付けないのです」
アイオの問いに、ボサボサ髪のくたびれた男が答える。
人格形成プログラムのインストールが出来なければ、オーナー登録も出来ず意識を保つ事も出来なかった。
「この子の脳にアクセスしてみますね。トオヤ、ボクの身体を支えてもらえますか?」
「OK」
アイオは手術台の傍らに立ち、片手を手術台の上の少女に差し伸べる。
トオヤはアイオの胴に両腕を回して、抱き締める体勢で支えた。
少女の額にアイオの手が触れた時から、脳へのアクセスが始まる。
アクセス中のアイオは自分の身体を動かせなくなるので、倒れたり額から手が離れたりしないようにトオヤが支えた。
まだ身体を動かす疑似人格が無い、人工生命体の少女。
その脳の記憶領域は空白で何も無い……筈だった。
(え?!)
記憶領域へ入り込んで異常が無いか調べていた【アイオ】は、突然何かに引っ張られた。
同時に、トオヤが支えていたアイオの身体が、大きく仰け反る。
「アイオ? どうした?!」
驚いたトオヤが呼びかけても、反応は無い。
仰け反った時に少女の額から手が離れ、アイオの身体は完全脱力状態となった。
「……お、おかあさん……」
「……どうしたの?」
見学していたチアルムとカールが、不安そうに声をかける。
トオヤはアイオを仰向けにして呼吸で胸が上下しているか、口元に頬を近付けて息がかかるかを確認した。
「呼吸はしてる。生きてるよ」
トオヤが告げると、子供たちは少しホッとした様子になった。
「……え?!」
「お、おい……どうなってるんだ?!」
騒ぐ声がして、トオヤは手術台の方を振り返る。
そこに寝ていた少女が起き上がり、こちらを見ている姿が視界に入った。
アイオと同じサラサラしたストレートの長髪は白金色、開かれた瞳は緑色、美しく作られた少女は手術台から降りて、トオヤに歩み寄る。
「……そんな……まだプログラムを入れる前なのに……」
ジュリア博士も呆然として、トオヤに近付いていく少女を見つめていた。
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