第52話:工場見学

リベルタスには農業の他にもう1つ、近年発展したという産業がある。

それは、人工的に生命を作り出す技術。

アエテルヌムの技術には及ばないそうだけど、この星にもアイオのような人工生命体がいるらしい。

その工場を見学出来るそうで、アイオが行ってみたいと言うので見学に行く事にした。

コロニーではほとんど進んでいない、生命を作り出す技術。

一体どんなものだろう?


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「アエテルヌムの宇宙船が来るなんて久しぶりですよ」


ジュリアと名乗る工場の女性スタッフは、そう言ってトオヤたちを案内する。

アエテルヌムの知的生命体は全員コールドスリープに入っているので、現在稼働している生命体はアイオのような人工的に作られた者だけ。

その人工生命体も、最後にここを訪れたのは何百年も前の事だった。


「アルビレオが前回立ち寄った時は、この工場は無かったですね」


興味深そうに工場内を眺めながら、アイオは遠い記憶を手繰り寄せる。

工場内には様々な大きさと形の水槽があり、中には1体ずつ様々な生き物が入っていた。


「この者たちも、アイオやアルビレオのように【心】があるのでしょうか?」


撮影許可をとったライカが内蔵カメラで水槽を撮影しながら問いかける。

コロニーの技術では得られない【心】を手に入れるため移民団に同行した犬型アンドロイドは、水槽の中身をじっと見つめていた。


「残念ながら、アエテルヌムのような人工物に【心】を作り出す域には達していないのですよ。今の我々に出来るのは、擬似的な感情までですね」


ライカと共に水槽の中身を見つめて、ジュリアが答える。

彼女は開発チー厶のスタッフで、作られる生命たちについて詳しかった。

擬似的な感情というのはライカに搭載されているAIに近いもので、接している相手や自分の状況に合わせて台詞を言う、アドリブ演技に似ている。


「我が社が作る人工生命体は、細胞構成は自然界の生物に近付いていますが、精神面はプログラムに頼っています。愛玩用には物足りないようですが、使役用としては感情は必要無いのかもしれません」


水槽をそっと撫でて、ジュリアは言う。

命令に従って行動する使役用の人工生命体は、下手に感情など持ってしまったら不幸かもしれない、と彼女は思う。


「ボクとアルビレオは使役用ですが、感情があると出来る事が増えるので良いと思いますよ」


アイオが隣に歩み寄り、微笑んで言う。

彼はトオヤに仕えてから現在まで、使役される事に不満は無かった。

それはトオヤがアイオを道具ではなく、1人の人間として見ているからかもしれない。

アルビレオのAIは人型の端末アイオとは幸せの基準が違うものの、トオヤが所有者になった事に満足していた。

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