第45話:薬草園と双子
猫耳族は山と森を拠点に生活する部族。
その集落は、かつては良質な薬草の産地として知られていた。
けれど今は、栽培に関わる大人たちが死に絶えてしまった。
世話をする者がいなくなった薬草は、半野生化して存在し続けている。
マヤの案内で向かった薬草園は、森の奥でひっそりと逞しく繁茂する、様々な薬草の宝庫だった。
宇宙船アルビレオ号
艦長トオヤ・ユージアライトの日記より
「ニイ! ミイ! どこ?!」
森の奥、薬草が自然繁殖する場所で、マヤはそこにいる筈の仲間の姿が見えないので呼びかける。
採集を済ませてアジトに戻る途中なら、向こうから歩いてきたトオヤとマヤに会う筈。
しかしここまでの道中、2人は誰とも会わなかった。
『そこから少し先、奥に進んで。小柄な人が土の中に埋められてるよ』
アジトに待機しながらアクウァ人の探知能力で森を探るカールから、そんな情報が届く。
「マヤ、こっちだ」
駆け出すトオヤに、マヤも続いた。
薬草園から先へ進むと、真新しい土盛りが見えてくる。
トオヤが
黒猫っぽい少年と、白猫っぽい少女が、穴の中に無理やり押し込められたような体勢で掘り出された。
気を失った状態で埋められていた子供たちは窒息しかかっていたが、心肺停止ではない。
足りなかった空気を求めて何度か大きく息を吸ったり吐いたりした後、双子は目を開けた。
黒猫少年はニアと同じ薄い緑の瞳、白猫少女は移民団の子供たちと同じ青い瞳、どちらも縦長の虹彩がある。
「ニイ! ミイ!」
マヤが呼びかけると、兄妹はそちらに目を向けて安堵した様子を見せるが、隣にいる見知らぬ青年、トオヤを見た途端に怯えて顔を引き攣らせた。
黒いシッポと白いシッポが、驚いた猫のように膨らむ。
「大丈夫、トオヤは味方だよ」
「虐めたりしないから、怖がらないで」
2人を安心させるため、マヤとトオヤは落ち着いた声で言う。
穴の中に横たわったまま起き上がれない双子をそれぞれ抱き起こし、身体に付いた土を払い落とす。
最初は警戒したものの、トオヤに抱き上げられた子はすぐに身体の力を抜いて身を委ねた。
マヤはトオヤほど体格差が無いので少々重そうだが、もう1人の子を抱き上げる。
トオヤは子供たちを連れて、山猫団のアジトに
「ニャッ?!」
突然部屋の中に現れた4人に驚き、ナオがキジトラシッポを膨らませる。
「ごめん、驚かせちゃったね」
「びっくりしたぁ。……ニイとミイ、どうしたの?」
トオヤが微笑みつつ謝ると、ナオは彼が抱いてきた少年ニイと、マヤが抱いている少女ミイに気付いて聞く。
双子からは、微かに湿った土の匂いがした。
「土に埋められてたんだよ」
「え?!」
答えたマヤの言葉に、ナオがまたシッポを膨らませる。
窃盗を繰り返してきた山猫団は、街の人に捕まれば何をされるか分からない。
埋められていた双子から事情を聞こうとした時、トオヤの超感覚的知覚、危険感知がアジトに迫る何かを報せた。
同時に、閃きのように対処方法も浮かぶ。
『カール、反射防壁を!』
『はい!』
トオヤの指示で、カールが展開するサイキックの防壁が小屋を覆う。
その直後、屋外で爆音が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます