第43話:野良っぽい子は食べ物に弱い

黒猫耳の子はマヤという名前で、パン屋のオヤジが言う通り、山猫団という子供だけで構成される窃盗集団のメンバーだった。

腹を空かせているマヤに、アイオが艦内の食事を与えたら、すっかり懐いてしまった。

マヤ曰く「食べ物をくれる人は良い人」だとか。

移民団の子供たちもオヤツをお裾分けしたら、すっかり打ち解けているよ。

マヤの身体のウイルスを分析したアルビレオのデータによると、それは猫耳種族の成人のみ発症するウイルスで、古くからあるが最近になって変異したものだった。

子供時代は無症状だが成人近くなると発症、腹部の激痛で水も食べ物も受け付けなくなり、1週間ほどで衰弱死してしまうというもの。

政府が開発したワクチンで症状を和らげる事は出来るけれど、アルビレオの医療設備のようにウイルスを完全消去は出来ない。

部族の大人は既に全滅、子供たちも15歳近くなると発症して死んでいるので、現在の生き残りはマヤを含めて5人だけらしい。

その5人だけでも助けられるだろうか?

アイオはウイルス消去プログラムをサイキックに変換すれば、艦内設備が無くても治療出来るという。

僕たちはマヤを説得してアジトを教えてもらい、子供たちの治療に向かった。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「お前、オイラたちの父ちゃんになってくれるのか?」


美味しい食事であっさり陥落したマヤ。

彼にとって、腹いっぱいゴハンが食べられる艦内は天国に見えるらしい。

彼はカールから何か教えられたらしく、トオヤが自分を養子にすると期待して聞いてくる。


「マヤたちがそれを願うなら、叶えるよ」

「オイラここがいい。他の奴もここのメシ食ったら絶対こっちがいいって言うよ」


マヤは満面の笑みで断言した。

艦長席に座っているトオヤの膝に座り、幸せそうに眼を細めて頭をすり寄せる。

その仕草は、猫耳族が親愛を表すものだった。


「みんなでここへ来ればいいよ。居場所は用意出来るから」


トオヤは、もう腹を括っている。

残りの4人の意見を聞いてからだが、5人の猫耳たちを移民団に加える心の準備は出来ていた。

アルビレオのAIは、既に子供部屋の増築を準備している。


「子供たちにあげるお弁当、出来ましたよ。マヤ、案内してくれますか?」

「うん!」


4人分の弁当を持ったアイオが言うと、マヤはすぐ駆け寄って手を繋ぐ。

その様子は、母親に甘える子供に見えた。

最初に見た時よりも幼く感じられる、本来の子供らしさが出ているマヤに、アイオが微笑む。


「お菓子も持ったよ」

「ジュースとお茶も持ったよ」


カールとチアルムはついて行く気満々だ。

アニムスはといえば、そっとトオヤの手を握って一緒に行くアピールをした。


「なんだかピクニックみたいな感じだけど、そろそろ行こうか」


トオヤはそう言うと、アイオと子供たちを連れて山猫団のアジトに向かった。

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