第42話:野良っぽい獣人

アイオと子供たちの僕に対する認識が、何か間違っているような気がする。

親のいない子をつい拾っちゃう人だと思われてるみたいだよ。

パン屋のオヤジに殴られてた子を庇ったのは、あのままだと殴り殺されそうだったから。

地面に落としたパンを拾って逃げ去ったから、食べ物に苦労してるのかな?

盗みを繰り返していたら、殴られるだけじゃ済まなくなるだろう。

そんな心配をしていても、当人が逃げてしまったからどうしようもないけどね。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




「あのクソガキは山猫団のメンバーだぜ。街へ来ると盗みばかりする嫌われ集団さ」


翌朝、パンを買いに行ったついでに店主に聞くと、そんな情報をくれた。

元は山奥に住む少数民族の子供たちで、その村はウイルス性の病で大人たちが全滅しているという。


「せっかく政府がワクチンを提供するって言ってんのに、身体に針を突き刺すなんて嫌だとかで拒否してる馬鹿どもだ。成人するとウイルスで死んじまうから年々数は減ってるぞ」


パン屋のオヤジは言う。

山猫団の子供たちは発症していないものの、ウイルスを保有している【キャリア】と予想出来た。


「注射嫌いかぁ、コロニーの子供にも多かったな」

「殴られるより痛くないのにね」


パンを買って店を出ると、トオヤが幼少期を振り返りつつ呟く。

酷い殴られ方をしていた子供を思い出し、チアルムも呟いた。


「アルビレオの医療設備なら、ウイルスを完全消去出来ますよ」

「でも、患者が逃げちゃったら使えないね」


アイオが朗報を告げるが、カールが残念なお知らせをする。

どんなに良い薬があっても、使う相手が逃げてしまっては意味が無かった。


『あの子、あそこにいるよ』


未だ言語能力が戻ってないアニムスが、精神感応テレパシーで皆に告げる。

彼が指差す方を見ると、街はずれにある大木から何かがぶら下がっているのが視界に入った。

ロープに巻かれて、太い枝から吊るされた小柄な人物。

駆け寄って確認してみると、昨日と同じ黒猫耳シッポの少年だった。


「また何か盗んで捕まったのかな?」

「トオヤ、治癒能力ヒーリングを使うのは待って下さい。先にウイルスを消しましょう」


トオヤは跳躍してナイフでロープを切り、小柄な獣人を抱えて着地した。

気を失っている少年は昨夜から吊るされたままだったのか、身体が冷え切っている。

吊るされる前に散々殴られたらしく、子供の顔も身体も打撲傷だらけだ。

アイオの提案で、一同は猫耳少年を連れてアルビレオ号に帰還した。



「良かったねアニムス、君に弟が出来たよ」

「良かったねチアルム、2人目の弟だね」

「良かったですねトオヤ、4人目の子供ですね」

「……みんな、何かが間違ってると思うよ」


アルビレオの医療ポッドでウイルス消去治療を受ける子供を囲んで、4人はそんなことを話す。

吊るされていた子供を見つけたアニムスは、心配そうに医療ポッドを覗き込んでいた。


「ウイルスはこの子だけ治しても、他の子がキャリアならまた感染してしまいます。全員のウイルスを消去してあげないと解決しないでしょうね」

「とりあえず、この子を説得するところからかな」


前回は意識が戻った途端に逃げてしまった猫耳少年。

艦内を逃げ回られたら困るので、トオヤがしっかり抱えた状態で治癒能力ヒーリングを使い始める。

傷が癒えて意識が戻った子供は逃げようと手足やシッポをバタつかせたが、縦抱きでホールドされている上に筋力差があり、振りほどけなかった。


「痛っ!」

「おとうさん、大丈夫?!」

「大丈夫、これくらいは耐えられる……」


シャーッと威嚇した猫耳少年に肩を噛まれて、トオヤが声を上げた。

心配するチアルムに答えつつ、噛んでいる子供を宥めるように後ろ頭を撫でる。


『落ち着け、君を虐めたりしないから……』


痛みに耐えつつ、トオヤは精神感応テレパシーで子供に話しかける。

抱き締めて後ろ頭から背中を撫で続けると、次第に落ち着き始めたのが感じられた。

しばらくして猫耳少年は抵抗しなくなり、トオヤの肩に突き刺していた牙をはずした。

トオヤの肩から血が溢れ出るが、アルビレオから得た再生能力が自動的に発動し、急速に傷は癒えてゆく。


「お前、何なんだ?」


敵意が薄れた猫耳少年が問いかける。


「少し御節介な、通りすがりの異星人だよ」


少年を縦抱きしたまま、トオヤは苦笑しつつ答えた。

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