第37話:精神波の感知

アニムスの過去は、大人でも耐えられるか分からない重いものだった。

僕のように物心ついた時から軍事コロニーで訓練を受けていれば、耐えられたかもしれない。

普通の子供として民間人の両親に愛され、幸せに暮らしていた子供には過酷な現実、多くの人の死。

閉ざしていた心を開きかけていた少年は、差し伸べられた手を振り切って逃げてしまった。

カールとチアルムは、それでも手を伸ばしている。

優しい2人の元へ、アニムスを戻してあげたい。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




トオヤが残留思念感知サイコメトリを使い始める少し前。

アルビレオ号から瞬間移動テレポートで逃げ出したアニムスは、クレーターの中央に立ち尽くしていた。

今更ながら、自らが起こしてしまった事に驚愕する。

物心ついた時から暮らしていた村が、跡形もない。

兵士に撃たれて命を落とした両親も、兵士たちの所業に怯えていた村人たちも、村の建物や井戸も、畑の作物も木々も、何もかもが消滅している。

その場にいた兵士もおそらく一緒に消え去ったのだろう。

雑草が芽吹いてはいるものの、そこには村の痕跡は欠片も無かった。


「……アァ……ウゥ……」


あの日以来、一度も声を発した事が無かった少年は、その場に膝をついて言葉にならぬ声を上げる。

空色の瞳から流れる涙は、今は拭ってくれる者がいなかった。


「やはり戻って来たな」


突然の声に、アニムスはハッと振り返った。

見覚えのあるデザインの服、あの日両親を殺した軍人と同じ服を着た男たちが立っている。


「お前の思念波は登録済だったが、感知出来なかったから死んだと思っていたぞ」


軍服の男の1人が言う。

彼だけ少しデザインが異なる服なので、おそらく隊長格の兵士なのだろう。

しかしアニムスには、そんな事はどうでも良かった。


両親の仇、幸せを奪った者たちの仲間、彼は軍人たちを見た途端、理性という殻が砕けた。

猛烈な殺意に目覚めた少年は、あの日のように力を解放しようとする。


「無駄だ」


しかし、冷ややかな声と共に、膨れ上がっていた【力】が打ち消された。


「お前の力は調べてある。既に対策済みだ」


隊長格の男はそう言うと、アニムスに銃を向ける。

危険を感じて瞬間移動テレポートで逃げようとしたアニムスは、何かにぶつかるような衝撃と共に地面へ転がった。


「力は封じた。逃げられんぞ」


何が起きたか分からず困惑する少年に、銃を向けたまま男が言う。

その背後に立つ部下の1人が、片手をアニムスに向けて何かの力を発動していた。


「貴重な能力者だ、殺しはしない。しばらく眠っていろ」


アニムスに向けて銃を発砲した後、隊長はまた冷ややかに言う。

その声は、意識を奪われた少年にはもう聞こえていなかった。

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