第35話:アニムスの言葉

アニムスの表情が豊かになってきた。

まだ言葉は話せないようだけど、食事の時の表情で好き嫌いが分かる。

話しかけると視線を向けてじっと聞くようになった。

抱き締められると微笑むのは、嬉しいってことかな。

カールに抱き締められながらチアルムの歌を聞く時は、うっとりして幸せそうな顔をしているよ。

このまま移民団の一員として連れて行ってもいいだろうか。

僕はアニムスに確認してみることにした。


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より




プレイルームを訪れたトオヤが、アニムスを抱き上げる。

お風呂へ行くのかと思ったアニムスは、いつものようにトオヤに抱きついて運びやすい姿勢をとる。

しかしトオヤが向かったのは風呂場ではなく、ミカルド星が見える展望窓だった。


「アニムス、僕たちと一緒に宇宙を旅してみないか?」

「おとうさん、アニムスも家族にするの?」

「アニムスも連れて行ってくれるの?」


トオヤはアニムスを抱いたまま、窓の外を見せて言う。

ついて来ていたチアルムとカールがテンション高く聞いた。

アニムスはキョトンとして首を傾げた。

窓の外にあるのは、衛星ヨルムの岩だらけの地面、その向こうに見えるのは地球と似た色合いの惑星ミカルド。

反対側にはアルビレオが光エネルギーの補給に使っている恒星があるが、この窓からは見えない。


「僕たちはこれからここを離れて、こことは違う惑星を目指す。もし良ければ君を連れて行こうと思ってるんだけど、一緒に来てくれるかな?」

「僕、アニムスのおにいちゃんになる!」

「多分チアルムの方が年下だから弟だと思うよ?」


トオヤは視線を窓の外からアニムスへ移して、笑みを浮かべて問う。

チアルムの兄になる宣言に、カールがツッコミを入れた。

ミカルド星の文明は宇宙船を造れるレベル、その星の子供なら分かると考えて、トオヤは提案した。

おそらく意味が分かったのだろう、アニムスは驚いたように目を見開いた後、微笑みと共にトオヤの胸元に顔をうずめる。


「これは、OKっていう意思表示かな?」

「おめでとうアニムス!」

「ずっと一緒だね!」

『……ウレシイ……デモ……ダメ……』

「「「え?!」」」


アニムスを抱き締めて囁いたトオヤと、左右ではしゃいでいたカールとチアルムは、突然流れ込んできた精神感応テレパシーに驚いた。

トオヤに抱きついて喜んでいた筈のアニムスが、悲しそうに顔を離して涙を流し始める。


『……ボクハ……ヒトゴロシ……ダカラ……』


そう伝えた直後、トオヤの腕の中からアニムスが消えた。

カールとチアルムが驚いて辺りを見回す。

トオヤも何が起きたか分からず驚き、艦内に思念を巡らせて捜索するが、銀髪の少年はどこにもいなかった。

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