第26話:吸血族の戦闘機

吸血族から取り返したルチアの亡骸は、カエルムの亡骸に寄り添わせて埋葬した。

カエルムの望みで僕は彼の思念と交代し、ルチアの弔いはカエルムの歌で締めくくる。

息子に歌ったものとは異なるその歌は、翼人の男性が女性へ贈る愛の歌。

翼人の歌にはヒーリング効果があるそうで、慣れない穴掘り作業でヘトヘトになっていた移民団の肩や腰の痛みを癒してくれた。


自由に空を飛べる翼人も、その命を終えると大地に還る。

カエルムとルチアは我が子のために思念は残したから、完全なる死とは少し違うけどね。

そういえば、先に埋葬を済ませた他の翼人たちは思念が残ってなかったけど、彼等は何も心残りは無かったんだろうか?


 宇宙船アルビレオ号

 艦長トオヤ・ユージアライトの日記より





『ベガ、村全体に防壁バリアを頼む』


危険を感知したトオヤの指示でベガが防壁を展開した直後、砲撃が村を襲った。

そろそろ来るだろうと予想していたトオヤは、驚きもせず空を見上げる。

村の上空に見え始めるのは、吸血族が乗る浮遊型の戦闘機。

円盤の上に人が座る座席が取り付けられたような形状で、操縦席はオープンカーのように天井が無かった。


「翼人にコメスさんが殺されるなんてありえないと思ったら、貴様らがいたのか」


飛来した戦闘機の1つから、そんな声がする。

どうやら、トオヤが放置してきたコメスの死体を発見したらしい。

すぐ分かるように置いてきたのだから、見つかるのは当然の事だった。


「そこのガキ、生きてやがったのか。追ってた連中を異星人に殺させたな?」


操縦席から、黒い翼の男が地上を見下ろし、白い翼の子供を見つけて睨む。

睨まれたチアルムはビクッと怯えて、アイオにしがみつく。

アイオはチアルムを護るように抱き締めて、吸血族を睨み返した。


「3人を殺したのは僕の判断だ。頼まれたわけじゃない」


トオヤはチアルムを隠すように進み出る。

穏やかに暮らしていた筈のカエルムたちを全滅させた吸血族だが、仲間を殺されて騒ぎ出す程度には情があるのかもしれない。


「お前たちがこのまま帰るなら殺しはしないが、どうする?」

「異星人の血はどんな味か、味見するまで帰る気はねえ!」


移民団を狩るつもりか、吸血族の援軍が押し寄せる。

無数の戦闘機から次々に発射されるレーザー砲はベガの防壁で防げているが、戦闘は回避出来ないように感じられた。


『アルビレオも囲まれてますね』

『うん。自己防衛機能があるから大丈夫そうだけど』

『戦闘やむなしですね』

『そうだね』


アイオとのそんなやりとりの後、トオヤはアルビレオ号に指示を出した。


『アルビレオ、反撃だ。上空の戦闘機を殲滅しろ!』


所有者権限の命令に反応し、待機状態だったアルビレオ号の自動戦闘AIが起動する。

眠る白鳥のように体に寄せていた翼が広げられ、首が持ち上がると、アルビレオは砲撃を開始した。

嘴からの主砲と、左右の翼に5つずつ備えた副砲、合計11の砲門から放たれるレーザー砲は、吸血族の戦闘機を遥かに上回る火力を持っている。

吸血族の軍勢は、形も残さず次々に蒸発してゆく。


『チアルム、あの中に見覚えのある奴はいる?』

『うん。さっきしゃべってた奴、最初に見た』


トオヤはチアルムに聞いた後、孵化直後のチアルムが見たという吸血族の背後に瞬間移動テレポートした。

ギョッとした直後、その吸血族の男は全身から力が抜けてゆく。

操縦席からずり落ちそうになるのを、トオヤは襟首を掴んで止めた。

短銃を麻痺攻撃モードでゼロ距離発射したとは、撃たれた本人も周囲の吸血族も分からなかった。


「お前たちが攫った翼人と卵はどうした?」

「……へっ、い……言うわけねぇだろ……」


トオヤの問いに、男は顔を引きつらせつつ言い返す。

しかし精神感応テレパシー能力者相手に、声を出して答える必要は無かった。

繁殖用に攫った女性も、血の採取用に盗んだ卵も、専用の施設に閉じ込めている。

その思考から情報を読み取ったトオヤは、男の襟首を離して狙撃した。

近距離・威力最大で発射されたのは、麻痺弾ではなく殺傷力のある光弾。

男は瞬時に蒸発して消え、操縦者を失って墜落しかかる機体は、トオヤの念動力テレキネシスに操られて後方の機体に激突した。


「て、てめぇ……よくも……」


付近に浮かぶ戦闘機の操縦者は、怒りを見せつつも撃つに撃てなかった。

トオヤは単身敵陣の中にいるので、迂闊に攻撃すれば同士討ちになりかねない。

空中に浮かぶトオヤもそれが分かっているので、多くの目に睨まれても平然としている。


『ベガは防壁の維持を、サイキックメンバーはベガのサポート、狙撃メンバーは敵の撃破を頼む。僕は翼人と卵の救出に向かう』


地上にいるメンバーに、精神感応テレパシーで指示が伝えられる。

その場の対処を皆に任せて、トオヤは男から得た情報を元に、攫われた翼人と卵が収容されている施設へ向かった。

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