第59話✩最終話前半〈運命の本との出会い〉

※この回の主人公は、前小説『最後の日記』の番外編最終話で名前が明かされた三田悠希です。

『源次物語』の登場人物と深い関わりがある女性で、12月1日が主人公の誕生日なので更新しましたが⋯⋯この回の最後が実は小説の冒頭に繋がっているという設定です。

二つの小説を繋ぐ最終話の前半で導入なので短かめですが、正体や今までの伏線の謎は後半で明かされるので、両方の小説を読んで頂けると本当の意味が分かります。


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澄み渡る

空に願いし幸せを

そのみなもと

永遠とわに護らむ


 その辞世の句は最後の特攻隊員が詠んだ句だと、借りた本の冒頭に書いてあった。

 そして、その本の後書きには著者が詠んだ句もあった。


春、過ぎて

香る心のゆく末は

ひろがる空に

光りかがやく


 私はその句を読みながら、本来漢字で書く部分が平仮名になっているのには何か意味があるような気がしていた。


 私が図書館でその本を借りたのは、最初のページに懐かしい名前があったのと、パラパラめくる中で本の中に自分と同じ名字や誕生日が出てきたからだ。


 もう何十年も前に出版されたであろう古い本⋯⋯

 本はいつもデータで読んでいたが、入院するに当たって久し振りに紙の本が読みたくなり、図書館に行って偶然出会った本だった。


 私は、奥の片隅にあった本棚の誰にも気付かれなさそうな場所に置かれていたその本に、吸い寄せられるように手を伸ばした。

 こんな事を言うと変な風に思われるかもしれないが、本に呼ばれた気がした。


 私は三田悠希はるきというプレートが付けられた病院のベッドの上で、おなかの痛みを誤魔化しながらその本を読んだが、著者の親友が詠んだという冒頭の辞世の句が生まれた背景を読みながら涙が止まらなくて⋯⋯

 その句に込められた本当の意味に深く感動した。


 そして、その本を後書きまで読んで「恩人の篠田へ」という著者の高田源次という人が詠んだ句を見た時⋯⋯

 何故か懐かしくなると同時に、名前と誕生日を思い出して鳥肌が立った。


「春、過ぎて⋯⋯香る心のゆく末は⋯⋯ひろがる空に⋯⋯光りかがやく⋯⋯ってもしかして⋯⋯」


 本の中の謎と今まで自分が見聞きしてきた事の全てが繋がっていく気がした。


 確かめようと本の最初のページに戻ると⋯⋯

 気が遠くなるのと同時に歴史の渦に呑み込まれていくような……本の著者の視点の人生が映像になって目の前に狭ってくるような、不思議な感覚に私は陥っていった。


 私の中に流れ込んでくる記憶⋯⋯

 最後の特攻隊員に選ばれ、一時は死を覚悟したという、その本の著者の方の人生が⋯⋯

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