全てが輝石と成り果てるまで
汐風 波沙
第1話 結晶化現象と平和な日常
この世界は、とても理不尽だ。
たったの5歳で、僕はそれを体感し、奇しくもそれを抗うことが許されないことを知ってしまった。
旧人類には、結晶化していない人は沢山いたようだが、結晶体が全てを示すこの世界では、残酷だが、この現実を受け止めるしかないのである。
『無能な子』『世界に馴染めなかった可哀想な子』
というのが、僕の世間一般様からの認識である。
「大丈夫、他の子よりも遅いだけで、いつか必ず貴方にも現れるはずよ!!」
母さんは、僕に対していつも励ましをくれる。
それでも僕が居なくなると、
「母さん、どうするんだ。このままでは、俺達は無能な子を育てることになるんだぞ。もうアイツに愛情は向けないで、他の子に充填すべきだと思うんだ」
「そうね、私達がお国のために出来ることは、最高品質の兵士を用意する事。そして、今後も生きて行くためには、子供達が戦えるくらい強くなくちゃいけない。あの子はきっと強くなると思っていたけど、どうやら見込み違いだったようね」
見捨てられる事、僕は誰にも必要とされていないことがわかったのだ。
そのまま誰にも期待されず、10年の時が経った。
「え〜、朱輝石は火や爆発への適性を持つ色で自身にも火や爆発への耐性を与えます。蒼輝石は主に回復や水を操る事に長けている色で自身そして他者の傷を癒す事も可能です。因みに、蒼輝石には派生系の白藍色の蒼輝石は氷属性とその耐性があるから覚えておくように、試験に出すからな。翠輝石は風を操る力とそれを耐える強靭な肉体が付与される色です。因みに、火にはとても弱いです。続いて、琥珀輝石は主に土属性の持つ強い頑丈さと火への強い耐性を持ちます。また、結晶化した輝石は自分が理想となる形に変形が可能ですが、それぞれの基本性能により可能がどうかが決まります。まあ、そもそも、未だに結晶化出来ていない者もいる様ですが」
教室の中が笑いで溢れる。
そう、このクラスでは1人だけだった。
結晶化をすることが出来なかった、そして今なお結晶化していないのは、俺だけだ。
そして、この世界にいる人間ではただ1人俺だけが運命から見放された可哀想な奴なのだ。
「まあまあまあまあ、旧人類の大半は結晶化現象なんて起きなかったそうだし、気にする必要は無い!!少し周りと次元が違うだけで、卑下していい訳じゃないのですから」
授業をしている教師は、顔に笑みを浮かべながら、そう言った。
クソが
それが俺の毎日だった。
孤児院で育った俺には逃げ場なんてなかった。
何かあれば、卑下の対象になるし、周りからは疎まれたり、理不尽な嫌がらせも当然だった。
結晶体はその人を表す物だとすれば、この世界の人々の大半は、くすんだ色なんだろう。
そう思わないと毎日を過ごしていくことが出来なかった。
「それじゃあ、今週の授業は終わり!!また来週から頑張っていきましょう!!」
教室からぞろぞろと生徒が出ていく。
やっと長々と無駄な話ばかりの授業が終わり、俺も帰る準備を始めた。
ラボに戻ったら、昨日の続きをやろう。あと少しで完成なんだ、この週末で完成させよう。
「折っ!!一緒に帰ろ?」
「お前も相変わらずの物好きだな、晴」
空気も読まず、一緒に帰る提案をしてきたこのいかにもクラスの中心に居そうなイケメンは、
「なあ折、また寝てないのか?隈が昨日よりも酷くなってるぞ?」
「気の所為だろ。それよりも、いいのか学校で俺に話しかけても?」
「当たり前じゃん。だって、俺達は親友で幼馴染だろ?折がピンチな時は、必ず助けるから、俺がピンチな時も折が助けてくれよ」
夕日が差す放課後にイケメンが少し笑みを浮かべながら手を差し伸べる。
カッコイイ、カッコイイのだが、男同士でやる事じゃないんだよ!!
「晴……、格好付けてんじゃねぇ!!」
俺は、晴の頭に軽くチョップする。
「いてっ……、でも、悪くないだろ?シチュエーション的に!!」
「まあ、イケメンは何してもイケメンだから、いいよな……、俺がやったら、恐怖映像の出来上がりだな」
「またそうやって自分の事を卑下する!!折、俺は折を傷付ける奴を許さない。例えそれが折であってもだよ」
まっすぐと俺の目を見て晴は言った。
その目は真剣そのもので、本気だということが伝わった。
「悪かったよ、今後気を付ける。帰る準備終わったし、帰ろうぜ」
「……」
「いい加減機嫌直してくれよ。今日も調整手伝ってもらわないといけないから、心身に乱れがあると、正しい結果か分からなくなるだろ……」
「じゃあ、約束しろ。今後、自分のことを卑下したり、ダメなヤツだとか考えるの。折には折しか持ってない特別があるから、そんな自分自身の可能性を下げるようなことを言わないと約束してくれ」
晴の目は真剣そのものであり、俺の心に直接約束をかわそうとしている。
「……わかった、今後一切自分の事を卑下することはしない。でも、時々弱音を吐くのは許してくれ。俺が俺を保てなくなるからさ」
「わかった、それは認めてやる。そして、もし明日世界が敵に回っても俺だけは必ずお前の味方でお前を護るよ」
「ああ、それで俺達は互いを保つことが出来るのなら、それでもいい」
「それでも、俺が死んでただの結晶となった後は、俺を砕いてくれ」
「わかった、約束だ。男と男の」
俺は晴に手を差し伸べる。
晴はそれを少し恥ずかしそうに掴む。
「じゃあ、帰るか……」
「そうだな、早くラボに戻って試作品3号を完成させよう」
そして、俺と晴は荷物を持って教室を出た。
結晶化、それは人々の生きる次元を一次元上にしたが、やはり人の根本的な部分は変わらず、同調性集合体にしか過ぎない。
だが、それでも俺達は生きていくしかない。
全てがただ一つの完全な一片に成り果てるその時まで。
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