3 天体観測で天使を見ました!

 ペルセウス座流星群観測の深夜。


「ヒメの誕生日も近いし、鳴海さんの弟くんのお見舞いもしようか。去年はわたしたちだけで祝ったけど」

 折笠さんが提案した。そのとき時刻は午前二時をまわっていた。


「わたくしも! お姉さまの誕生日を祝いたいです!」


「わたしも」わたしこと鳴海千尋も賛同した。


「弟子がマスターの誕生日を祝うのはあたりまえです」

 ノアちゃんものり気である。


「……あたしの家、来る?」

 姫川さんは照れたように莞爾した。(※莞爾……にっこりと笑うこと)


「とてもトゥルーです。マスター姫川」

 黒咲ノアちゃんが不敵に微笑んだ。


「流行らせたいのね。ノア言語を」

 折笠さんが疎ましい声をだす。


「トゥルー」ノアちゃんは目を爛々と輝かせる。


「わたしはスルーする」


 ちゃんと折笠さんの言葉あそびにみんな笑壺になった。わたしこと鳴海千尋の涙も乾きはじめた。




 早暁。鼻先をなにかがよじ登っているのに気づいた。夢のゆりかごから覚醒したわたしは飛び起きる。


「なにっ⁉」


 それは小さな昆虫、テントウムシさん。わたしの指に乗り移った彼は指先までよじ登ると羽を広げ飛び立った。


 周囲を見渡すと女子高生たちは無防備な姿で熟睡していた。ひとつ離れたところで護国寺先生も爆睡している。


 天体観測しながら語り合い、誰からともなく眠りの世界へ。わたしたちが入部してからなんどか天体観測を行ったがこんなことははじめてだった。



 起こさなきゃ!

 ……待って。姫川さんのあどけない寝顔。あ、ちょっとよだれが。かわいい。


 折笠さんは眠りながら姫川さんの手を握っている。


「ヒメ……」

 よっぽど好きなんだろうな。


 村雨さんはいつの間にか眼鏡を外して熟睡していた。彼女は眼鏡を外すともっと瞳が大粒で、とびきりの美少女だった。


 黒咲ノアちゃんは中二病ファッションの眼帯を装備解除している。深夜の観測のため師匠である姫川さんがノアちゃんに命令したのだ。


 素顔のノアちゃんは中学生にも見える。ふだんの言動とは似ても似つかない幼い少女だった。


 わたしはそうっとスマホに手を伸ばした。


「はい、チーズ」(小声で)


 ぱしゃり! 天使たちが羽を伸ばすところを激写!


「みなさーん、朝ですよ~。起きてくださーい」


 なにごともなかったように彼女たちを揺さぶって起こした。


「朝⁉ 寝てたの? 天文部部長失格だよ」


「わたしもよ。副部長失格ね」


「わたくしもです。天文部としての最後の天体観測なのに無念です」


「ボクは眠りを誘う妖精ザントマンにしてやられました」


「いいじゃないですか。わたしはすごいものを観測しましたよ」


「なに? 大きな流星でもあった?」


「ひみつです」


 わたしは口元に指をあてた。笑顔が綻んだ。

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