2 護国寺先生、姫川マーマとマッチング!
ここはeスポーツ部の部室。32インチテレビが設置されて、わたしたちの対戦を映しだす。いままではコントローラーで対戦していたが、アーケードコントローラーも何台か用意されて、使いやすい方を使うことになった。
対戦は可能な限り録画して、部活動の締めに映像を見ながら意見を出し合う。
そうすることで研ぎ澄まされた操作が実戦に反映されるという護国寺先生の指導だった。
実際に他人のプレイを鑑賞して分析することはプラスになっているという実感がある。
学校の教室にWi-Fiは通っていないが部費で契約したポケットWi-Fiで通信対戦している。対戦の研究をはじめてから統計的に勝率が高くなっているのだ。
今年のGEBOの種目はまだ発表されていないが、わたしたちは爪を研ぎ澄ましてチャンスを待っていた。
でも最近、護国寺先生の様子がおかしい。eスポーツ班の顧問を引き受けているのにスマートフォンをちらちら見て、なにかを打ち込んでいる。
彼はスマホ中毒になるような人ではないと思っていたのだが……。
これが恐ろしい事件の前兆だなんて。神ならぬ女子高生のわたしたちには知る由もなかったのでした。
その日。部室には姫川さん以外のメンバーがそろっていた。折笠さん、村雨さん、黒咲ノアちゃんにわたしこと鳴海千尋。護国寺先生はまだだった。
姫川さんが部室に飛び込んできた。息も切らして美しい瞳が今回ばかりは殺気立っている。
「うっしーは⁉ うっしーはどこ⁉」
「どうしたんですか。天音さん。今日は職員会議で遅れるって言ってたじゃないですか」
「そうだった……」
席についた姫川さんはゲームに手をつけられず、頭を抱えたり、視線を落としてため息をついたり。ロリポップキャンディをつぎつぎと噛みくだく。さすがのわたしたちも異変に気づいた。
「どうしたの、ヒメ。なにかあったの?」
「うっしーが来てから話すよ。ああでも、みんなには知られたくない」
「わたしにも話せないことなの?」
「いや、でも、相談に乗ってもらったほうが良いかも。正直、あたしの手に余る」
「それほどのことなの?」
「おれだ。入るぞ」
そのとき職員会議を終えた護国寺先生が部室に入ってきた。すると姫川さんは彼のネクタイをつかみ壁に追い詰めた。
「なんだ、姫川! どうしたんだ⁉」
護国寺先生もあまりのことで気が動転している。
姫川さんは壁に勢いよく手をついた。どん!
「うっしー。婚活アプリやってるよね? うそついてもだめなんだから」
鬼気迫る貌で先生を睨んだ。
先生は図星を突かれて言葉を失う。
「仮にそうだとしても姫川には関係ないだろう」先生の顔が引きつっている。
「関係あるよ。うっしーがいまマッチングしているアナスタシアはあたしのマーマだもん」
なんだってー⁉ 高校教師が婚活アプリで生徒の母親とマッチングですとー⁉
「うっしーのことは嫌いじゃないし、誠実な男性だと思っている。でもあたしのマーマと結婚してパーパになるのは勘弁してよ。護国寺天音になっちゃう」
「アナスタシアって。彼女は三三歳のはずだぞ」先生は狼狽した。
「あたしのマーマは一六歳のときロシアであたしを産んだの! いま三三歳」
「そうだったのか……。たしかにおれは婚活アプリをやっている。ここまで知られては仕方がない。すべてを話そう」
つづく
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