【 ゲームが始まるのはもう少し先のはずなのに 】
第45話 本番はこれから
聖女エナ・ブローシャが祈っている間、クラウシェラは椅子に座ってじっと待っていた。
これは別に丸くなったとかではないのよね。
この国の人は、みんな信仰心に篤いの。彼女もまた例外じゃないってだけ。
ただその間も、値踏みはしっかりしているわね。
身長は150センチピッタリ。ビックリするくらい細いけど、不健康さは全く感じない。
ただ誰が見ても守ってあげたくなるような印象を感じさせる。
光を浴びて金色に輝く透き通るような長い髪。紺色の瞳。将来は相当な美人になる事が約束された整った美貌。
ただ今はまだ可愛いって感じね。
プロポーションは全体的に控えめだけど、やっぱり手足が長いわ。羨ましい。
実際にはゲームが開始した時に出会う。
学園の入学式ね。
そこで取り巻きをぞろぞろ引き連れたクラウシェラと会うのよね。
当然、クラウシェラは無視。
信仰篤く相手は聖女とはいえ、彼女からすれば所詮は庶民。
将来的には神殿入りするのだろうけど、この世界の教団は政治に介入する事はない。
固有の財産を持たず、信者などから得た資金は全て国や所属する領主に献上される。
その代わり、献上された方はきちんと宗教を守るのよね。
だから住む世界が根本的に違う。
中に人が入らない限り、彼女がクラウシェラの世界に足を踏み入れる事はないのだ。
まあ王子の方が一方的にエナに浮気して、それを知ったクラウシェラが激怒。
王子を半殺しにしたあげく、婚約破棄という形での関係はあるのだけどね。
でもどうだろ?
今回のクラウシェラなら浮気も気にしないわよね。
そこから100回も破滅しているんだし。
だとしたら、婚約破棄は――あ、やっぱりするわ。あの王子だもの。
まあ良いんじゃないかな。王家の血筋を血統に取り込む事は出来なくなるけど、それでクラウシェラの人生が閉ざされるわけじゃない。
むしろ他の国に嫁ぐのでもない限り、相手の男性は地位的には全部格下。
案外、性格を考えたらそっちの方が幸せなんじゃないかしら。
――ねえ、ここであの女殺したらどうなるかしら。
『そういった物騒な考えは止めて』
信仰心は何処に捨てて来たの。
でもまあ実際にそのつもりは無いし、出来ない事も分かっているから部下を置いてきたのよね。
5行武典もそうだけど、聖女もまたこの世界に現存する”神”が選んだ存在。
まあ武に生きる5行武典は武によって倒すことは出来る。
実際に武を志す他の人間にとっては、憧れであると同時に倒すべき目標でもある。
『大体無理だから』
でも聖女である彼女は、神によって守られている。
この世界の人間は全て神の僕であり、無力な聖女を害する事が出来ない。
でもそれは精神的な制約から。
そういった物さえ外してしまえば、聖女であっても害する事は出来る。
それに事故や病といったモノから神様は守ってはくれない。
結構いい加減だし、クラウシェラが本気で敵対したらあっさり倒されちゃうのよね。
バッドエンドだから彼女が覚えていないだけで。
でもまあ、
『そもそもそんなつもりもないんでしょ?』
――そりゃね。今は学園で会うのが楽しみだわ。
わたくしだって100回も破滅したのだもの。今さら余計な手出しをする気はないわ。
ただ一斉関係ないを貫くか、こちらに取り込むか。どちらが安全なのかは分からないのよね。
それを決めるためにも、少し話をしに来ただけよ。
『そっかー』
そんな話をしている内に、彼女の祈りは終わった。
静かに立ち上がり振り向くと、物凄く驚いた。
まあ判らないでもないけど、人間慣れはしているはずよね。
今でこそ静かな修道院だけど、聖女降臨の話が広まった当時はかなり人が来たらしいし。
当然ながら、ここの領主に禁止されたけどね。
そんな訳で、こちらもここによる前に許可は取っているわけよ。
だから彼女にとっては久々の他人という訳ね。
――妙に派手に驚いたわね。わたくしの事をしっているのかしら?
『クラウシェラの中にいる竜を感じているのよ』
これは嘘じゃない。
ゲームでも、クラウシェラを見たエナは、彼女の中にあるどす黒いものに恐怖する。
それが静かな戦いの始まり。
「驚かせてごめんなさい。わたくしはジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵の娘、クラウシェラ・ローエス・エルダーブルグですわ。本日は近くに寄ったもので、聖女様にお会いしたくお邪魔させていただきました」
そういって見事なほどに美しい礼をする。
この点はさすがだなー。
それに心も一切乱れていない。
さて、聖女はどう反応するかな?
「そ、そうでしたか。わ、私はエナ・ブローシャと申します。せ、聖女に選ばれてはお、おりますが、私はただの修道女でご、ございます」
はあ、なんかちょっと拍子抜け。
このゲームはボイスチャットを使ったAIキャラクターと直接会話するゲーム。
プレイヤーの言葉はこの世界観にあった言葉に変換されるし、例えばゲームやスマホとかこの世界にない言葉を使った場合、そこは自動変換されるか無言になる。
ちなみに今のは「あああああ」とか会話ではない言葉をした時に代わりに話すデフォルトの言葉。
ただ本来なら、学園でクラウシェラが気まぐれで話しかけた時の応対セリフなんだけどね。
もっと高圧的に話しかけるから、あんな感じになるのよね。
あたしも慣れない事は、必ずあのセリフに変改されたわね。
クラウシェラも覚えているかしら?
ただその後はどんどん慣れてきたから、色々な応対をしたものだわ。
でもこれで確定かな。
この状態でも、状況違いのデフォルトセリフ。
これは今後も全部「あああああ」と言い続けた時に進むデフォルト通りかな。
とすると、最後はバッドエンド。
ヒロインは誰とも結ばれる事無く神殿で聖女として暮らし、王子は今さらクラウシェラと再婚約する事もなく他国から姫を娶る事になる。
当然公爵家を始めとした国内貴族から猛反対があり、クラウシェラは王城を包囲してこの婚姻を解消させる。
だけどそれを侮辱と取った隣国が他国と連合して本格的な戦争に突入。
この戦いで、クラウシェラは命を落とす。
まあこれもバッドエンドだから、クラウシェラの記憶には無いみたいだけどね。
その後のもいくつか話をしたけど、全部「あああああ」とかの言葉を言った時の代用セリフ。
もう良いかな。後はクラウシェラを暴走させないようにして……あー、でも王子の結婚話どうしよう。
色々と阻止しないといけない点はあるわね。
こうしてあらかた話し終わった後、最後にクラウシェラは訪ねた。
「そういえばお尋ねしたかったのですけれど、どうしてこの修道院をお選びになったのですか?」
うーん、学園と修道院が変わるだけかな。
でもその場合、学園で聞かれた場合は何て答えるんだろう?
まあ幾つか用意はしてあると思うけどね。
「親友が……勧めてくれたんです」
……ん? こんなセリフデフォルトにあったっけ?
「でも、勧めるだけ勧めといて、本人は遠くに行っちゃって。だから、色々調べたんです。彼女の残したメモや日記とかを。そして……私は今ここににいます。彼女と同じ景色を見るために」
「そお……」
「ただ、少し違っていて。私が思っていたのとも、彼女が残してくれた……手記とも」
今、AIの補正が入った。いや、それはおかしくない。あたしもついついテレビとかいっちゃって補正されていたし。でも何だろう、この感じる不安は。
「でも、諦めません」
「貴方にも色々あったのね。おそらくだけど、貴方とは学園出会う気がしますわ。その時話しても良いのだけど、貴方にここに来るように勧めてくれた人はどんなひとだったのかしら? よろしかったら、教えてくださりません?」
「ヒヒロ・ナカジョウ。私が最も尊敬し、同時に最も負けたくないと、追いつきたいと思い続けていた人です」
「いつか追いつけるといいわね」
「はい、必ず」
こうして、2人の話は終わった。
なんだか間に火花が散っていた気がするけど、全く頭に入らなかった。
なら……
でも何で子供時代から?
それに同じ景色って……嫌な予感しかしない。
――さあ、帰るわよ。戻ったらもう学園の手続きをして、いよいよ入学よ。
あそこからは無数に道が別れるわ。今まで以上に、何があるのか分からない。
貴方も一緒に破滅したくないのなら、気を引き締めなさい。
『そ、そうね』
そうよ、不確かな事を悩んだって仕方が無いわ。
でももし、あたしが100回クリアした攻略メモを持っているとしたら?
それが佳奈だったとしたら? 今までの事件、裏で糸を引ていたのは……。
でもまだゲームが始まっていないでしょ? なんで人が入っているのよ! しかも佳奈かもしれないなんて!
そもそも改めて思うけど、何であたしがこっちの世界にいるの?
分からない事が多すぎる。
確かな事は一つだけ。このまま手を打たなければ、間違いなく破滅する。
今は気を引き締めましょう。
本番は、これからなんだから。
100回破滅した悪役令嬢と、100回破滅させたあたし~二人で始める破滅回避への道 ばたっちゅ @btc001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
作者
ばたっちゅ @btc001
初めまして、ばたっちゅと申します。 様々な物語を書き続けられたらと思っております。 書籍化目指して頑張りますヾ(*´∀`*)ノ よろしければ、是非読んでみてください。もっと見る
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます