【 王子との婚約は多くの国民に祝福された 】
第27話 城塞での生活
翌日からお城暮らしとなったけど、クラウシェラは翌日から積極的に情報収集に励んでいた。
割と真面目に言うと、1ヵ月は寝込んでいてもおかしくない。
というか、そもそもがいつ死んでもおかしく無い旅路だった。
なのにこのバイタリティ。恐るべしよね。
ただ流石にベッドの上からは逃がしてもらえなかったので、資料を持って来させては吟味している。
――どう思う?
『ちんぷんかんぷんでさっぱり』
――聞いたわたくしが愚かだったわ。
うう、反論できない。
一応内容は分かるのよ。これでも成績は良かったんだから。
だけど書いてあることは兵士の動きだの、資金の流れだの、色々な町の動きだの、あたしにはとっては専門外なのよね。
さすがに貴族社会だの兵士だのお金の流れだのなんて教わっていないって。
しかも地図もなしに町の名前だけ見ても、ゲームでメインとなる町の名前しか分からないわ。
――要するに、狙いは最初からわたくしだったって事。
『クラウシェラの予想が当たっていたって事?』
――そうじゃなければ良かったのだけどね。
でも少なくとも3年――場合によってはそれ以上の時間をかけて準備しているわね。
『そんなに!?』
――まあ貴方に話しても分からないと思うけど、南部の町から切り崩されているわ。
確かに元アゾール王国領に近かった地域だけど、こうもあっさり寝返るとは呆れるわ。
先ずはこの地域の有力者については、一族全員を公開処刑ね。
『はいストップ』
――なにか文句があるの?
『一族って事は、子供も?』
――はあ……当たり前でしょ。将来の禍根を生かしておいて何になるのよ。
裏切った町の有力者は一族郎党全員処刑。抵抗するなら軍勢を派遣して攻め落とす。
基本中の基本よ。
『話し合いで何とか……』
――裏切ってもお咎めなしとなれば、他の町にも波及するわ。
利益がありそうなら敵に付き、失敗したらごめんなさいで許す。そんな事をしていたら、逆に火種をばら撒いて戦火を拡大させるだけよ。
世の中は漫画のように甘くないって事かー。
「許すわ」なんて言うだけで涙を流して忠誠を誓うなんてことは無い。
むしろ内心でほくそ笑みながら、甘くみられるだけ。
そして今までよりは慎重になるけれど、やっぱり何かあれば裏切る。
まあその辺りの理屈は分かるのよね。
それにクラウシェラが言っていた。命令を聞かせるためには、遥かな高みにいなければいけないって。
今回彼らが公爵家を裏切ったのは、そこの領主たちがまだ領民よりも高い所にいたからよね。だから命令に従ってクラウシェラを襲撃した。
理屈は分かる。だけど――、
『やっぱりだめ』
――……ふう。いいわ、長い付き合いだもの。話だけは聞いてあげる。
『確かにクラウシェラの方法は早い。だけど、その領地の人たちはまだ公爵家よりも前の王家の存在の方が大きいのよ。だからね、上手くは言えないけど、ここで処罰しちゃったら、結局は代わりが出るだけだと思うのよ』
――それも間違いじゃないわね。
『どうせ新しい領主には、討伐で功績を上げた人が入るんでしょ? なら、前の領主はもう追放だけで良いじゃない。言っていたでしょ? 同じところまで降りたらもう従わないって。だから公爵領じゃない、他の領地に平民として引き取ってもらうのよ』
――そんな暮らし、耐えられるかしらね。贅沢を忘れられずに落ちぶれるのが……いいわ、その案に乗ってあげる。そうよね、そのまま落ちぶれで滅亡すれば良し。もし誰かに頼るようであれば、そこからつながりが……ふふ、貴方も思ったより悪よねえ。
『そんなつもりは無いわよ』
▼ ▲ ▼
こうして、あたしたちはこのお城で暮らす事になった。
お城というのも変だけどね。何と言っても、ここは国内最大の規模を持つ巨大城塞。
この国の首都であるエステウォーザ城よりも規模や防御は上なのよね。
バッドエンドでは、ここを拠点としてクラウシェラは色々な道に進むの。
世界を相手の大戦争から公爵領の絶対統治のような身近な事まで。
でもどんな事をしても最後は破滅の運命が待っている。
詳しい事は、“その後こうなりました”という説明と次回へのヒントが表示されるだけね。
だから詳しい事は知らないの。
隣国との戦争に負けて死亡。
王家に反逆し、国を乗っ取った絶頂期に誰かに刺されて終わり。
主要人物を粛清しまくった結果、王家の反撃にあい戦死。
この辺りが主要なバッドエンドね。
でも結局のところ、ハッピーエンドの為には最大の敵であるクラウシェラをどうにかするしかないわけよ。
だから慣れてきてからは、これらのエンディングは見なくなった。
ゲームや世界観、人間関係にも慣れてきて、ミスする事も無くなった。
だからあたしの興味は、単なるエンディングよりも最凶の敵であるクラウシェラをどうやって出し抜いて、追い詰めて、華麗に倒すかに夢中になっていた。
だけど今、あたしの中では大きな疑問が生まれつつある。
あたしは浅い所までしかプレイしていなかったんじゃないだろうか?
本当はあったんじゃないの? クラウシェラが破滅しないエンドが。
彼女を内側から見ていると、どうしてもそんな感じがしてならない。
今になって、ゲーマーとしての血が騒ぐ。
チャンスはこの1回。最初で最後の大博打。
でもやるしかないのよね。お互いの身の安全のために!
▼ ▲ ▼
この城は単に巨大な城塞としてだけではなくて、ジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵領にとっての首都だったりする。
当然だけど、執務などをするために公爵領の中枢は全てこの城に集められているのよ。
だからいつも公爵がいるのかなーとか思っていたけど、実際にはそうではないという現実。
視察や他の貴族との会合、王家への挨拶。相当に忙しいらしく、城には滅多にいない。
戻ってきたら戻ってきたで、大量の書類の整理に日夜追われている。
もしかしてクラウシェラが専用の屋敷を与えられていたのって、単に公爵が息抜きをするためだったのかしら。
そのクラウシェラはというと、とっくに到着していたオーキスと再会。
跪き、涙を流しながらここまで探し出せなかったことを詫びていたわ。
でも仕方が無いわよね。誰が裏切っているか分からなかったのだから、味方からも見つからないようにした逃避行だったのだから。
ちなみに弓のサリウスは、彼をここまで運ぶと放浪の旅に出た模様。
彼の移動先はランダム要素が高いので、ゲームスタート時にどこにいるかもわからないのよね。
まあそういう設定なのだから仕方がないけど。
一方でオーキスに対するクラウシェラの意見は……うわー、辛辣。
思ったよりも苛ついているわね。
彼のケガを考えれば理不尽ではあるけれど、確かにもうちょっと手は打つべきだったわね。
特に門番の件とか。
『ねえねえ』
――何?
『百叩きとか解雇とか、物騒な事は考えていないわよね』
――まるで人の考えが読める様ね。精霊の特技かしら?
『長く一緒にいるからねー』
嘘ですごめんなさい、リアルで読んでいます。
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