第10話
ライアム公爵の執務室に案内された僕とアーシャは公爵様に先日の一件について説明した。転移を使って魔族を呼び込み僕達と交戦したこと、謎の男がその件を引き起こし逃げられてしまったこと。あの日に経験したことをすべて隠さずライアム公爵に伝えた。もちろん僕が転生者であることを相手が見抜いていたことは伏せたけど。
僕とアーシャの話を公爵様は険しい顔で聞いていた。
「成る程。……アーシャが王都での話と関係があるかもしれないという理由は話を聞いて分かった」
「すいません、少し聞いてもよろしいでしょうか?」
先ほどからずっと疑問に思っていたことを聞きたくて僕は思わず口を出してしまう。
「構わない、申してみよ」
「その王都で話があった件とはなんですか? 先ほど戻られた時にもおっしゃられていましたが」
「そのことか。今回王都に王国の有力貴族が集まっていたのは知っているな」
「はい、公爵様もそのために王都に行かれたのは僕も把握しております」
「その時に話があったのだ、どこの領地でも魔族の襲撃が増えていると。中には突然魔族が現れて街や村を襲ったこともあったそうだ」
「……」
成る程、それでアーシャが王都で話があった件は今回の件と関係があるかもと言っていたのか。他の領内でも魔族が突然現れるようなことが起きていたと。
「お父様、一連の動きにはなにか関連があるのでしょうか?」
アーシャの問いかけに公爵様は難しい顔をされた。
「それはまだはっきりとしたことは言えぬな。その謎の男を捕らえればなにか分かるかもしれんが」
「……申し訳ありません、私がもっとしっかりしていれば」
「謝らないでよい、お前とラナはよくやってくれた。私が不在の間、よく領民を守ってくれたな」
「ありがとうございます」
公爵様はねぎらう言葉をかけるとこれからどうするかを考え込むように顎に手をあてる。
「ふむ、これだけ魔族の襲撃が突然行われているならなにもしないという訳に行かない。ただ相手の情報があまりにも少ないのでな。今できることと言ったら領内の警備を強化することぐらいだろう。今後は我が領内の警備を強化することとする」
結論を述べられた公爵様は僕と私を見て、
「さて難しい話はここまでだ。……まったく無茶をしたものだ」
完全に先ほどまでの会うものを威厳はなくなり、今は面倒見のいい父親のような雰囲気だ。元来の性格は人がいい方なんだよね。責務が重いから普段は話しかけにくい雰囲気をしているけれど。
「お父様、無茶をしたのはラナのほうです。私は彼女を助けでばかりで……」
公爵様の指摘にアーシャがふてくされる。
「ちょっとアーシャ。自分が無茶をしてないような口ぶりはやめてよね」
「あら、私が助けなかったらあの場でやられていたのは誰ですかね」
「……」
澄ました顔で反論してくるアーシャ、確かにあの時彼女の助けがなかったらまずかったのは否定できないため、僕は言葉に詰まる。
「二人ともそこまでだ」
僕達の言い争いを見かねた公爵様が割って入る。
「アーシャ、ラナはお前のよき理解者なのだ。仲良くしなさい」
「別に怒ってはいませんよ。ただラナがいつもいつも無茶をするから困っているだけです」
拗ねてしまったアーシャはそっぽを向いてしまう。その様子を見て公爵様はため息をつかれた。
「……もう少し素直になれぬものか……」
「なにか言いましたか? お父様?」
じろりと公爵様を睨むアーシャ。僕はその様子を見て公爵様も苦労されるななどと他人事のように考えていた。
「なんでもない、お前達この後はなにか予定があるのか?」
「いいえ、特には。私は今日は屋敷でゆっくりと過ごす予定ですので。ラナと二人でおしゃべりや訓練をして過ごすかもしれませんが」
「そうか。なら一端今はここで解散としよう。私がいない時のお前達二人の様子は食事時にでも侍女達も交えて聞かせてもらうとしようか」
公爵様は微笑まれながら僕とアーシャを見る。アーシャは相変わらず機嫌が悪いまま部屋を出て行った。
「ああ、ラナ。少しだけここに残ってくれ、お前と二人で話しておきたいことがある」
「?」
アーシャじゃなくて僕に? 一体なんの話だろう?
「分かりました。少しお待ちください」
僕は先に部屋を出ていたアーシャに呼びかける。
「アーシャ、先に行ってて。公爵様が僕に話しがあるらしい」
「お父様があなただけに話?」
「うん、僕と二人で話したいらしいからさ」
アーシャはいぶかしむような顔をしたがやがて頷き、その場を去っていった。
「さて」
アーシャが去ったのを確認した僕は公爵様と向き合う。
「公爵様、僕だけに聞かせる話とはなんでしょう?」
「うむ。ラナ、お前の今後に関わることだ」
「僕の今後……」
一体どういうことだろう? 僕はライアム家に拾われてからここで生活させてもらっているけど、身分はないに等しいどこの生まれかも分からないような人間だ。だから領地ではアーシャの付き人として振る舞えるけど、王宮には許可がなければ入ることもできない。
このまま僕はこの家でこの状態が変わることなく過ごしていくことになると思っていたが……。
公爵様は緊張した様子で僕を見つめる、場を沈黙が支配する。やがて公爵様が思い口を開いた。
「ラナよ、正式にライアム家の養子になる気はないか?」
「えっ……」
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