第6話
「うわ、もうこんな時間か」
過ぎていた時間に僕は驚く。アーシャのほうも元々眠そうにしていたがいよいようつらうつらとしている。
「アーシャ、部屋の戻って寝よう」
僕は彼女に部屋へ戻るように促す。眠りかけている彼女はこちらをとろんとした瞳で見つめ、にっこりと笑った。
「……いや」
「嫌って……そんなわがままを言わずに」
拒否する彼女を僕は必死に宥めようとするがアーシャは首を縦に振らない。
「もうねむいからあなたのへやでねます」
「いや、やめてね!」
僕は頭を抱える。まずい、今日一日接してて分かっていたことだけど今日の彼女はあまりブレーキが効いていない状態だ。こういうふうに言い出したら聞かないだろう。
「きちんと部屋で寝よう、僕が連れていくからさ」
「いやったらいや。きょうはいっしょにねるの」
眠気のせいで舌足らずになっているアーシャはいやいやと首を振る。幼い時はあまりにねだるので我慢して一緒に寝ていた時もあったが流石にこの年齢になって一緒は恥ずかしいし、精神面が男である僕にはそんな行為は非常にやりずらい。
というよりこんな美人が隣で寝ていたら心臓がもたない……!
「お、お願いですから言うことを聞いてください……」
「……」
懇願するように頼む僕をアーシャは不満を隠そうともせず睨みつけてくる。
「らなはわたしといっしょにいるのがいやなの……?」
泣きそうな表情で上目遣いに僕を見つめてくるアーシャ。くそ、それは反則でしょ!!
「はあ……」
僕は大きくため息をつくとゆっくりアーシャに語りかける。
「そんなことあるわけないよ。ただ僕といると君にも嫌な評価が付き纏うことになるかもと思って」
これは事実だ。ライアム家や関係者の中には僕を嫌っているものもいる。そういった人達はアーシャが僕と仲良くしていることを快く思っていないのさ。
(そんな人達にとって僕は完全に平民の身分の人間でしかないしね)
僕を苦々しく思っている人達はアーシャがこういうふうに僕と接しているのを心良く思っていない。また彼女への攻撃が始まる。
なのでさっきの言葉は嘘偽らざる本心だ。僕のせいでアーシャに迷惑がかかることだけは避けたかった。
僕の言葉を聞いたアーシャはこちらを睨み、僕の腕を摘まんできた。痛い! この子、結構力をいれて摘まんできたな!
「い、痛い! な、なにすんのさ!」
「まだそんなことを気にしているのですか?」
アーシャのその言葉に僕は言葉が紡げなくなる。なぜなら僕の今の発言に彼女がとても怒っていることが分かったからだ。
「何度も言っているでしょう。私とあなたは家族のようなものです、他の誰かにとやかく言われる筋合いはありません。あなたが言ったような輩がいるのなら私があなたをそいつらから守ります。だからお願い、あなたがいることが迷惑なんて言わないで」
強い口調で断言するアーシャ。そんな彼女を見て僕はなにも言えなくなる。彼女は僕の寝間着の袖を強く掴み、懇願するように僕に言ってきた。
「……ごめんよ、ただ恩のある君に迷惑をかけたくなかっただけなんだ。こんな身元もよく分からないような僕みたいな人間をこの家に置いてくれたのは本当に感謝してるよ」
「……そんなの気にしなくていいんです。あなたは等身大の私を見てくれる唯一の人なんですから。こんなに自分のことを話せるのは今も昔もあなたくらいですよ」
「そっか。まあ、長い付き合いだし、こんな僕でよければいつでも話を聞くよ」
「ふふ……」
僕の言葉を聞いて満足そうに微笑む。今後負うべき責任が増えていく彼女の助けになるなら、話を聞いて寄り添うことなんておやすいご用だ。
「それはそうと部屋には戻ってくれないの?」
「今の話を聞いてそういうことを聞きますか?」
「……ごめん、僕が悪かった」
彼女に根負けした僕は今日一緒に寝ることを承諾。ベッドに彼女を寝かせ、自分はソファに寝ようとした。
「なにをしているのです? あなたもここで寝るのですよ?」
立ち去ろうとしている僕をアーシャは無理矢理引き留める。
「僕はソファで寝ようと思っているんだけどな」
「別にここで寝てもいいでしょう、ベッドも二人なら寝られるくらいですし。どうしてここから去ろうとしているのですか?」
「それは……」
「抗弁はいいですから早くこちらに来なさい」
「ちょっ……うわ!」
袖を強く引かれて僕は勢いよくベッドに倒れ込む。目の前にはアーシャの綺麗な顔があった。
(ち、近い、近い! これは僕の心臓に悪い!)
心の中で悲鳴を上げる。美人の綺麗な顔が側にあるのはとても刺激が強い。
「ふふ、やっと観念して大人しくなってくれましたね」
「……いや、あの」
アーシャを振りほどこうとしても強い力で僕を抱きしめて離さない。完全に抱き枕の状態だ。
そして彼女はそのまますやすや寝始めてしまう。
「~~~~~~~~~~~!?」
寝落ちするのが早い! そういえば最初から眠そうにしていたからなあ……。
「……仕方ないか……」
もう抵抗を諦めた僕もそのまま目を閉じる。そのまま眠りに落ちるのはそう時間がかからなかった。
次の日、僕もアーシャも気が抜けていたのかいつもより遅くまで寝てしまった。様子を見に来た屋敷の侍女達に一緒に寝ているのが見つかりしばらく彼女達の話題はそのことでもちきりになった。
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