嗜虐と、事故
*
「これで十発、頭を撃てばいいのね……。ねえルヴィエラ、どうする? 誰が誰を撃つの? それとも自分を撃つの?」
箱から一丁の魔銃を手に取ったサフィーリアが魔銃を弄り回しながら言う。他の三人も恐怖半分興味半分といった感じで、箱の中を怖々と覗き込んでいる。
ルヴィエラがサフィーリアの後ろから手を差し出すと、サフィーリアは阿吽の呼吸でその手に自分の持っていた魔銃を手渡し、更にもう一丁自分用にと魔銃を取り出した。ルヴィエラは目を細め、その鈍く光る武器を様々な角度から確認する。
「ふうん……言っていた通り、やはりどの魔銃が何発目に弾が入っているのかは分からないのか。ならば迷う必要は無いだろう」
ルヴィエラはニヤリと笑んで視線を上げると、まだ箱の中を覗き込んでいる三人に言い放つ。
「スピカとトパーゼンも魔銃を取れ。それから残った一丁はこちらへ。──そして、ガーネッタ」
高圧的な口調で支持が飛び、慌ててスピカとトパーゼンは魔銃を箱から取り出した。一丁をルヴィエラに手渡す二人を不安そうに見上げ、おどおどとガーネッタが立ち上がる。
「あ、あの、何でございましょうか。わ、わたくしにはその、魔銃は持たせては下さらないのですか……?」
「ガーネッタはそこに立て。そう、そのまま動くな」
疑問には一切答えず、ルヴィエラは皆を手招きする。手短に指図すると、サフィーリアは満面の笑みを浮かべ、他の二人はさっと顔色を失くした。それでも逆らうという選択肢は無い。蒼白な顔で震えながら無言で従う。
──かくして、ガーネッタを全員で取り囲むという先程の図が出来上がった、という訳だった。
*
「全員で合図と同時に撃つんだ。そうすれば、誰の魔銃から弾が発射されたか分かり辛いから、少しは気も楽になるだろう?」
「嫌、やめて、やめて下さいませ……」
四丁の銃口がガーネッタの頭部を狙う。ぼろぼろと零れる涙にほだされる者はいない。
「ゼロで発射だ、用意はいいかな? それではいくぞ、三……」
ニヤニヤと悪意に満ちた笑いを浮かべ、ルヴィエラが声を張る。皆が魔力を注ぎ、四丁の魔銃が二つは真紅に、二つは青に輝き始める。
「──二!」
サフィーリアが楽しげに声を上げる。その海の如き紺碧の瞳が嗜虐にギラギラと光る。
「……いちっ」
スピカとトパーゼンの掠れ裏返った声が重なる。その手はまだ少し震え、その顔色は蒼白だったが、表情は保身の為の諦めと少しの安堵に彩られていた。
「──ゼロ!」
愉悦に満ちたルヴィエラの声と、ダンッという音が同時に聞こえた。
──刹那、ギィンという耳障りな金属音と、迸る悲鳴が響き渡る。
「……っ、き、ゃあああぁああっっ!?」
一瞬後、……倒れる令嬢が、二人。
「は……?」
何が起こったのか理解出来ずに、ルヴィエラとサフィーリアは同時に間抜けな声を上げた。スピカも眼前の光景を飲み込めず、ぽかんと口を開け魔銃を握った姿勢のまま立ち尽くしている。
「っひい、いた、痛い痛いいたああぁああっ!?」
自身の身に何が起こったのか理解出来ず、ただ痛みに床に転げのたうち回っている令嬢の胸許から、じわりじわりと赤い血が溢れ出す。ドレスは真紅に染まり、ドクドクと床にまで血が飛び散る。
そう、銃弾に胸を貫かれ倒れたのは、──水色のドレスの令嬢、トパーゼン・タパスであった。
*
「何やら面白い方向に話が進んでいるようじゃないの」
アメリアが砂糖漬けの柘榴を飲み込み、また食みながら呟く。その視線はスクリーンに固定されている。
「何が起こるか分からないものですね。想定外のアクシデント、これぞゲームの醍醐味と言えましょう」
ディアマンテスが楽しげに言葉を零す。その眼鏡越しの視線もまた、アメリアと同じスクリーンに向けられていた。
「ここからどうなると思う? ディアマンテス」
「そうですね……まず一つは、このままトパーゼン嬢が残りの六発、いや先程の発射は一発が外れたという判定になっておりますので七発ですね、それを全部頭に受けて終了、という流れでしょうか」
「ああ、いっそ彼女は助からないだろうから、犠牲になって貰おうという考えね。次は?」
執事が立てた人差し指をちらとアメリアが見遣る。ディアマンテスは中指も立てて指を二本に増やし、言葉を続けた。
「二つ目は、想定外の事が起きた責任を無理矢理ガーネッタ嬢に取って貰う、という感じでしょうか。元々の計画を貫く方針ですね」
「トパーゼンの仇を討つ、という名目も立つわね。普通に予想するならばこのどちらかになりそうだけれど」
そして再びアメリアが、執事の手を見遣る。するとゆっくりと薬指が立てられ、指が三本となった。
「……もう一つの予想とやらも聞かせて貰える?」
「勿論です、お嬢様。……最後の一つは、ガーネッタ嬢が逆襲する筋書きですね。他の令嬢、例えばスピカ嬢辺りの魔銃を奪い、ルヴィエラ嬢に突き付ける。どうです、なかなかにスリリングな展開でございましょう?」
そしてディアマンテスはくっくっと笑いを響かせる。アメリアが落とした視線の先で、銀の匙に掬われた柘榴が艶めきを放つ。
「あの娘に、ガーネッタにそんな度胸はあるかしら」
「分かりませんよ。人間、追い詰められれば何をしでかすか、腹を括ればどんな行動に出るか──それは誰にも、例え本人にすら分からないものですよ」
「……そう、だと良いのだけれど……」
アメリアは物憂げに溜息を零す。
スクリーンの向こうでは、令嬢達の悲鳴と怒号が響いていた……。
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