映像と、再開
*
『──皆様、ご機嫌麗しゅう』
その声は突然響いた。
ゴールディ達五人が弾かれたように空を仰ぐ。──石造りの壁面、その高い位置に大きく投影魔法によって作られたスクリーンが煌々と輝いていた。
「あ、……アメリア……?」
王子が呆然と言葉を零す。四人も一様に驚きの表情でスクリーンの中の人物を見上げていた。
『勝手に招待させて頂いた事、ご容赦下さい、ゴールディ殿下ご一行様。わたくしが特別に用意したその部屋の居心地は如何だったでしょうか?』
変わらぬ鉄面皮、慇懃でありながら何処か人を馬鹿にした色を滲ませる物言い──ゴールディは、ああ、と溜息をつく。こういうところだ、我はこの女のこういう部分が苦手だったのだ、と再確認する。
「アメリア公爵令嬢! 貴様、王族に対してこのような無礼をはたらくとは、どういうつもりなのだ!?」
スティールが立ち上がりスクリーンに向けて怒声を吐く。他の二人も同様に、怒りを滲ませながら腰を上げる。王子とシルヴィアは座り込んだまま、握り合った手に力を込めた。
『反抗的な態度は命を縮める事に繋がりましてよ、スティール侯爵令息。他の方々も、口の利き方にはご注意あそばせ。──さあ、わたくしは一度しか説明致しませんから、黙ってよくお聞き下さい』
こちらの喋る内容が相手に通じている事を知り、スティールは口をつぐんだ。──一方通行でないのならば、いずれまた交渉の機会は訪れる筈だ。そうスティールは考え、追って口を開こうとしたブロンゼを制する。
「シッ! ──ブロンゼ、気持ちは分かりますが抑えて下さい。ひとまずはアメリア嬢の言葉に耳を傾けた方が良さそうです」
鋭いスティールの制止に、不承不承ブロンゼは黙った。代わりに目に怒りを込めてスクリーンの中のアメリアを睨む。
皆が注視する中、スクリーンの中ではアメリアが喋り始めた。その作り物のように整った顔はいつものように表情が無く、しかし紡がれる声は澄んだ鈴音のように凜として高らかだ。
『少しばかり説明致しますと、パーティの後、皆様をその部屋へと閉じ込めさせて頂きました。目的についてはいずれ話す機会もあるでしょうが、今は伏せさせて頂きます、ご了承下さいませ。──さて』
スクリーンの中のアメリアが動く。それまではアメリアの腰から上のみが移っていた映像が、薄汚れた石造りの壁へと変化した。それは今五人が監禁されている部屋と変わらない、むしろ全く同じもののように思えた。
『幾つか、守って欲しい約束をお伝えします。──一応は脱出経路が無いか、魔法が使えるかどうか確認しておいでのようですが。改めて、逃げだそうとしないよう、こちらが許可しない限り魔法を使おうとしないよう、お願いしたく思います。守って頂けない場合には命の保証は致しかねますわ』
画面外から聞こえ続けるアメリアの言葉に、五人はそれぞれ顔を見合わせた。出られない、使えないと分かっていながら念を押すのは、悪い冗談か何かなのだろうか。
更に画面が変化し、今度はアメリアと共にもう一人、長身の青年が画面に映る。長い白髪に眼鏡、モノトーンで固めた執事服──ゴールディは何度か彼の姿を見た事があった。
「あれは、アメリアの専属執事……確かディアマンテスとか言ったかな」
王子の呟きに耳を傾けながら、皆は何が起こるのか、食い入るように画面を見詰めた。
すると程無くスクリーンの中央に、更に一人の男がディアマンテスによって引き摺られるようにして現れたのだ。
水色の髪を持つその男は、自分達の親と同世代か少し上の年齢に見えた。皺の刻まれた痩せぎすの顔は苦渋に満ち、薄い青の瞳は落ち着かなげにうろうろと視線を彷徨わせている。
「あ、あ、あれはアクア先生だわ……何故先生が?」
シルヴィアの震えるか細い悲鳴が聞こえる。学院では古株の教員で或るアクア・マリーネがそこに居た。──手錠を掛けられ、首には頑丈そうな枷を嵌められて鎖に繋がれた姿で。
執事に鎖を引かれ無理矢理立たされたアクアには、特に目立った外傷などがあるようには見えない。しかし疲労を濃く滲ませたその顔は、アメリアとディアマンテスを憎々しげに睨んでいた。
アメリアはそんなアクアの様子を意にも介さず、再びゆっくりと口を開く。
『さて、これから皆様に一番守って頂きたい事をお伝えします。……それは、嘘をつかないことです。そう言葉にすると簡単な事のように思われるでしょうが、これが一番単純にして一番重要なルールなのです。──もし嘘をついたらどうなるか。ここで皆様に実演して差し上げますわね』
その台詞に、誰もがぞくりとした悪寒を覚えた。とても、嫌な予感がする。
固唾を飲む音が、石造りの牢に静かに響いた。
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