さよならの行方 4
イヴェール侯爵領を、西に進む。
六月も半ばになり、日中の日差しが強くなった。
徒歩で長距離を進むのはだんだんと厳しくなってきたので、どこかで西に向かう馬車を拾いたいところだが、そう都合のいい馬車はなかなか捕まらない。
大金を動かせばもちろん馬車を借りて連れて行ってもらえるだろうが、できるだけ節約したいので避けたいところだ。
一番いいのは、西に向かうついでのある荷馬車だ。運がよければタダで乗せてくれるし、タダでなくとも銅貨数枚ですむ。
(次の町で馬車が見つかるといいなぁ)
女の一人旅は危険だというので、暗くなる前に宿をとるようにしていた。自衛の心得のないサーラは、野宿はもちろんしない。出費がかさむがこれは致し方ないと割り切っている。だからこそ、馬車代は節約したい。
次の町にたどり着いて、サーラは手ごろな宿をとると、まずお風呂に入ることにした。
高級宿ではないので部屋にバスルームはないが、一階に浴場があるのでそこを借りる。
気温が高くなると汗もよくかく。
宿を取るたびに服や下着を洗濯して今日まで繋いで来たけれど、そろそろもう一、二着は買い足したほうがいいだろうか。荷物が増えるのは嫌だが、三枚の服を着まわすのは限界にきていた。生地も、もう少し薄手のものがほしい。
お風呂から上がって部屋に戻ると、窓の外の夕焼けが濃くなっていた。
夏になって日中が長くなったから、もう少しがんばって長時間歩いてもいいのだが、一人旅はやっぱりまだ怖いので今のペースで行こうと思う。
続けていれば、一人旅にもそのうち慣れるだろうか。
ころんとベッドに横になって、無意識に首元をさぐる。
指先に小さなペンダントトップが触れて、サーラはホッと息を吐き出した。
寂しい、会いたい、逢いたい――でも、逢えない。
サーラ、と耳元でささやく甘い声が、恋しい。
「あと、半月。半月で……国境…………」
まだ、次の名前は決まらない。
(ウォレス様……)
いつになったら、あの人の顔が、声が、ぬくもりが……思い出に変わるのだろう――
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