失せもの探し 4

「マリア、ありがとうございます!」


 封筒が見つかったと報告すると、ブノアは大切そうに封筒を胸に抱えて頭を下げた。

 サーラ達が封筒探しをしている間に、本棚の整理は終わったようで、ベレニスからは疲れただろうから休憩していいと言われる。

 ベレニスも一息つくらしい。


 サーラは控室に戻ると、リジーの手紙の続きを読むことにした。まだ途中だったのだ。

 リジーによると、フィリベール――『神の子セレニテ』はまだ下町に出没しているそうだ。

 サーラはライティングデスクに座って手紙を開くと、もう一度頭から読み返すことにした。



『ヤッホー、サーラ、元気~?

 あたしは元気だよ~って言いたいところだけど、最近、前よりもずっとお店の手伝いに駆り出されてて嫌になるよ。

 ポルポルがあいてたらサーラのところに逃げられるんだけど、まだ戻って来ないんだよねえ?

 まったく、ポルポルに乗り込んできた男の横っ面をひっぱたいてやりたい気分だわ!


 そうそう!

 ポルポルに乗り込んできた男と言えばね、ほら、サーラに一目ぼれをしてサーラを探してた神の子がいたじゃない?

 あたしは見てないんだけど、ルイスによると、相変わらずあちこちで奇跡を起こしているらしいよ。

 あっ、サーラに言わせればトリックなんだよね。

 でも神の子の奇跡はカードだけじゃなくてなんかいろいろあって、下町の北の方ではちょっと盛り上がってるみたい。奇跡だ~って。

 一部には熱狂的なファンもいるらしいよ~。

 ルイスが「セレニテ様~」って呼んでるファンを見かけたんだってさ!

 すごいよね~。

 その神の子のファンたちは、赤と白のカメリアの花の刺繍が入ったスカーフを巻いているんだって。

 困ったことがあったら「セレニテ様」にお願いすれば、神様に祈りを届けてくれるんだ~って言われているらしいよ。

 みんな本気で神の子だって信じているんだろうね。

 ま、あたしはさ、奇跡じゃないってわかっているからそんなことはないけど! 神の子よりウォレス様の方がいいも~ん。


 あとねあとね、肉屋んところのバリーが結婚したんだよ!

 相手は秋ごろに親に紹介された一つ年下の女の子なんだって!

 先越されたよ! あいつは絶対に結婚できないって思ってたのに、なんでかなあ?

 体が大きいだけで別にかっこいいわけでも何でもないのにさ!

 あたしなんてまだ相手も決まってないのに! 悔しいっ。

 お母さんはバリーが結婚したって聞いて「あんたはまだなの?」って言うしさ~。

 おせっかいにも近所の人に「うちの子もらって~」なんて声かけて回ってるのよ?

 近所の独身男にろくなのいないじゃんねえ!

 あたしもサーラみたいにどこかに避難したいよ~。

 サーラも望んで避難しているわけじゃないから不謹慎かもだけど、でも、お母さんのおせっかいから逃げるついでに新しい出会いを探す旅に出たい!


 じゃあまたね!

 サーラの近況も待ってます!

 もちろんコイバナがあればそれでもいいよ。

 リジーより』



(……まったくもう)


 手紙を読み終えて、サーラは苦笑した。

 手紙に書かれていたセレニテのことも気になるが、何よりリジーが相変わらずすぎてどっと肩の力が抜けてくる。


(新しい出会いを探す旅ってなんなのよ)


 そんな旅、聞いたことがない。


(それにしても、カメリアねえ)


 奇しくも裏庭に咲いていたのも白と赤のカメリアだった。

 その花に何か意味があるのだろうか。


(まあ、誰かが勝手に広めた可能性もあるけどね)


 フィリベール・シャミナードの赤い瞳と白い髪を象徴しているだけというのもあり得る。

 ただ、そんな刺繍の入ったスカーフを首に巻いて神の子のファンを公言している人たちは、本当にただのファンなのだろうか。


(新興宗教みたいになっていないといいけど……)


 去年フィリベール・シャミナードを見たとき、彼には新興宗教を広めているようなそぶりはなかった。

 ただ奇跡という名のトリックを披露して去っただけだ。

 だから大丈夫だと思いたいが、いまだに下町に出没しているというのが気になる。

 ウォレスの指示で贋金が取り締まられてからまだ日が浅いので、再び贋金騒動を起こそうとしているとは考えにくいだろう。

 では何の目的があって下町をうろうろしているのだろう。


 先ほど見たフィリベール・シャミナードの顔を思い出す。

 人ならざる者のように綺麗で、どこか浮世離れした雰囲気を持っていた、穏やかそうな青年。


 彼の目的は、なんだろう。





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