種明かし 2
「サーラ、奇跡ってどういうこと⁉」
(まあ、こうなるわよね)
リジーの顔が驚きと好奇心でいっぱいになっている。
ウォレスが取り出したのは、トランプの箱である。同じものを二つ用意してもらった。
「サーラ、もしかして昨日の奇跡⁉ え⁉ 同じことができるの⁉」
「全部じゃないけど、いくつかはね。ちょっと待ってて」
サーラは立ち上がって、奥からカッターとのり、透明なテープそして白い厚紙を持ってくる。
そして一つ目のトランプの箱から、ハートのキングとハートのエース、それからダイヤの三、あとジョーカーのカードを取り出した。ジョーカー以外は昨夜セレニテが行った最初の奇跡で使ったカードである。
それから、もう一つの箱からもハートのキングとハートのエースを取り出しておく。
「ウォレス様、トランプを切ってもいいですか?」
「切る⁉」
リジーが驚きの声を上げる。
「うん。昨日のあの奇跡はね、トランプを加工すればできるのよ」
「切っても構わない。そのカードは君にプレゼントするものだからな。それより、早く教えてくれ」
「ありがとうございます。じゃあ……」
ウォレスから許可を得て、サーラはまず、ハートのキングのカードを半分よりも小さめに、縦に斜めにカットする。カードを三枚扇状に開いたときに、ハートのキングの絵柄が見えるくらいの幅にである。
そしてそれを、ハートのエースの真ん中の当たりに、斜めに張り付ける。張り付けるときにキングのカードを裏返し、斜めのカットした方ではなく、カードのまっすぐな面にだけテープを張る。
すると、表からはテープが見えず、カットしたキングのカードは片方の線でのみハートのエースに貼り付けられる。キングがぴらぴらと動くように止めるのがミソだ。
これが小道具一、である。
次に、ジョーカーのカードに白い厚紙を張り付けて、文字が書かれた面が真っ白いカードを作成する。サーラは手作りしたが、手作りしなくともトランプを扱っているメーカーに、何も書かれていないカードを頼めばそれで事足りるだろう。
これで準備は万端だ。
「セレニテは、昨日まず、こうしてハートのキングを見せました」
サーラはそう言って、加工していないハートのキングを見せる。
「仕掛けがないことを確かめてもらいます。リジー、確かめて」
「確かめるも何も、普通のカードじゃない」
そう言いながら、リジーがカードの印刷面を指の腹でこする。
「確かめたよ」
「うん。今度は、セレニテは箱からハートのエースとダイヤの三を取り出したよね。でも扇状に開くまで、文字が書かれているのを見せなかった。ここでセレニテは、カットしたハートのキングが張り付けてあるハートのエースと、ダイヤの三、それからもう一つ、わからないようにこの白いカードを取り出して、こんな風にして扇状に開いたの。もともと持っていたハートのキングは、観客席から見えないようにさりげなくカードの箱の中に戻してね」
サーラは加工されたハートのエース、白いカード、ダイヤの三の順に扇状に開いて見せる。
そのとき、白いカードは、カットされたキングのカードの下に挟み込むようにして持つ。
さらに、キングの下に差し込んだカードが白いカードだと気がつかれないように、ダイヤの三を上にかぶせる。
こうすると、扇状に開いたとき、観客にはただだのハートのエース、ハートのキング、ダイヤの三のカードが扇状に開かれているように見える。
「へえ、なかなか面白い」
ウォレスが目を輝かせてサーラの手元を見やった。
リジーも目をぱちくりとさせている。
「ここでセレニテは誰か一人舞台に上がってきてほしいと言って、リジーが上がったよね」
「うん」
「セレニテはカードを裏にして、横一列にこう並べた。このときカートの順番は入れ替えなかったから、誰もが真ん中のカードがハートのキングだと思っているけど、実際はただの白いカードよ。そして、セレニテはあたかも今から文字を消すように、カードの上に手をかざして、そしてリジーに確かめてみてほしいという。当然リジーは、消えると言われ、セレニテが直前に手をかざしたカードに手を伸ばす。めくってみて」
「……白いカード」
「そ。こうやってセレニテは、元々白いカードを、あたかも文字を消したように演出したのよ」
「な~んだ~」
リジーがちょっと面白くなさそうに口を尖らせた。
「ちなみにそのあと、セレニテは残った二枚のカードを回収してから、カードを観客に見せたけど、リジーが白いカードを観客に見せて注目を集めている隙に、加工していたハートのエースをただのハートのエースのカードにすり替えておけば、細工したカードにも気がつかれない。どう?」
サーラが細工したカードを隠して、ただのハートのエースを出して、ダイヤの三とともにテーブルの上に置く。
種明かしを終えると、ウォレスがくすくすと笑い出した。
「こうして教えられると、単純なものだな」
「まあ、細工に気づかれずに一連の動作を行うには、なかなか骨が折れるでしょうけどね。セレニテは手先が器用なんでしょう」
「え~、奇跡じゃなかったのか~」
「観客が選んだカードの文字を当てたのも、一瞬でカードの文字を変えたのも、その他も全部、これと同じようにカードに細工がしてあったのよ」
さすがに全部のトリックはわからなかったが、一部がトリックで一部が奇跡なんてことはないだろう。全部トリックだ。
「つまんないね~」
リジーがそう言って、パンデピスを口に入れる。
口に入れたパンデピスのようにスパイシーで刺激的な奇跡に胸を躍らせていたのに、ただカードを細工してあっただけとわかって、夢がはじけてしまったのだろう。
(悪いことをしたかしら……)
ウォレスには教える約束をしたが、リジーには黙っておけばよかったかもしれない。
ウォレスは楽しそうな顔で、サーラが細工したカードを見つめている。
「なあ」
「なんです?」
「やっぱりこのカード、私がもらってもいいか?」
カードのトリックに、興味を覚えてしまったらしい。
サーラにプレゼントだと言っていたが、細工したカードがほしくなったようだ。
「いいですけど……」
一応、「奇跡」に見える大道芸はヴォワトール国でも禁止されているのではなかろうか。
このカードのトリックが禁止されている項目に入るのかどうかはわからないが、この手のトリックが知られていないことを考えると、禁止されていなくともグレーゾーンだろう。
王子がそんなものに興味を持っていいのだろうか。
サーラが思っていることに気が付いたのか、ウォレスがニッと口端を持ち上げる。
「ちょっと揶揄って遊ぶ程度だ。大々的に披露したりはしないさ」
その、揶揄って遊ぶ相手が誰なのかは訊かない方がいい気がした。
(ウォレス様って、変に子供みたいなところがあるわよね)
やれやれと、サーラは苦笑した。
※一言(蛇足なのでご興味がある人だけ読んでください)※
カードトリックについてなかなかうまく文字で説明できなくてすみません。
ここで披露したのは「スリーカードモンテ」という手品の、フェイクカードを使ったトリックになります(フェイクカードを使わない方法もあります)。
今はトリックカードが売られたりしていますけど、昔はそんなものはないので手作りですから、カードを切って貼って…となります。
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