ヒミツの魔女娘さん!

藤友 優

プロローグ

「……人生……終わった。」


雨にぬれながら、トボトボと歩く男はぼそりとつぶやいた。

人生が終わったというのは、何も比喩ではない。

家がなくなったのだ。


母親は幼いときに事故で亡くなったとされ、父親と二人で過ごしていた。


しかし、この父親は運がないことに横領の濡れ衣を着せられクビになり、日雇いなどで生計を立てなんとかやっていたが、とうとう無理がたたったのか、ストレスからの飲酒のせいなのか、体調を崩してしまった。そして、学校から家に戻ると、父親の体は冷たくなっており、警察に通報、事情聴取を終えた。

しかし、家賃、光熱費等を払えるわけもなく、さらには父親が借金をしていた可能性を加味した男は、薄情だと思いつつも、相続放棄手続きなどを頑張って済ませ、学校の道具とわずかな下着のみを持って、彷徨っているわけである。


その彷徨った結果、近年日本においても出現し社会問題化しているスラム街に迷い込んでいた。


「はぁ……今日から俺もここに住むのか……」


男はスラムに入ってしばらくぶりに顔を上げ、周りに意識を向ける。

するとどういうことか、雰囲気が異なっていた。スラム街のどんよりとした雰囲気がなく、普通の生活ができそうな建造物の一帯が広がっていた。だが最も異なる点は、

「……丸まっている人がいない?」


そう、道ばたで段ボールを広げて毛布にくるまって、夜が明けるのを待つ人々がいないことである。


「……ここは、なんだ?」


思わず呆気にとられて口からこぼれる言葉。だが、これを好機と思った男は道ばたの段差に腰をかけ、歩き回って棒のようになった足を休め、ついでに周りに人がいないこの場所で一夜を過ごそうと思い立つ。


男が横になろうとした瞬間、

「鴻上秀也くん、ようこそ私の庭へ。」

女性の声が降りかかる。

そちらに目を向けた男、もとい鴻上秀也は目を見開いてしまう。


「え……?コスプレイヤー?……ってか、何で俺の名を?」


この偶然とも思える出会いが、鴻上秀也という男の人生を変えることになるのだった。

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