第14話 豪華な朝食

 俺はいつものように朝食をとりに食堂に向かう。食堂には一人しか座らないにも関わらずに100人は座れるような長い長い机と、椅子の数。


 一人で食事をするにはだだっ広い食堂の広さと、壁、天井、床、見渡す限り豪華な絵画やシャンデリア。あまりにも華やかすぎて、落ち着いて食事をできる雰囲気ではない。まだ寝床で食事をしていた方がまだリラックスしながら朝の食事を楽しめる。

 俺が長い長い机の一番奥、一人しか座れない長方形の短い側に座ると、タイムラグなく食事が出てくる。まるでコース料理かのように。


 転生したときの朝食は食べきれない量の品数と、特別な日でもあったかのような豪華な品物。おそらく二十人分くらいあったと思う。机の上がまるでデュッフェ状態だった。


 しかも、俺が食べなかったら全部捨てるのだとか。これが命令だっただとか。

 さすがにこれはもったいないし、今のエルタニア王国の現状を考えると、食材一つ一つが大切で、俺ばかりが私腹を肥やすわけにもいかない。


 メイドに頼んで、俺が食べきれる量に減らしてくれとお願いしたら、豪華な朝食のコース料理になったってわけ。


 もっと質素でいいのだけどな。


 俺がコース料理の二番目に出てきた皿であるスープを、スプーンで優雅に飲んでいると、食堂のドアから不意の来客が訪れた。


「レルス~~おはよ~~」


 目の前にぼさぼさの寝癖まみれのリーディアが、着崩れたネグリジェを引きずりながら食堂に入ってきた。


「リーディア!?なんでここに?」

「なんでもなにも、朝食を~~はぁーーぁ、食べに来たのじゃぞ~」


 リーディアは眠そうな目を擦りながら、俺の横の席に座ると、デザート用のスプーンを手に取って俺のスープを飲み始めた。


 こんな公の場に出てぐ~たらが演技だとばれたらどうするのか。リーディアはスープをおいしそうにつまみ飲んでいるが、俺はひやひやしながららスープを味わう余裕すらもなく、淡々と口に運んでいた。


「ん~~朝からうまいもの食いおって~~」

「リーディアの方がよっぽどいい食事をしているでしょうに」

「はぁ~?我が~?」

「えぇ」


 リーディアは椅子から立ち上がり、俺の真横まで近づくと、誰にも聞こえないくらいの小さな声で俺の耳元で囁いた。


「あんな牢屋みたいな部屋でとる食事がおいしいとでも?」

 

 リーディアは、眠たそうな素振りをみせながら、もといた席に戻る。


 彼女の言うとおりだ。あんな牢屋みたいな部屋に、毎日毎日一人で運ばれた豪華な食事を食べているのだから。どれだけ食材がよくて腕の立つシェフが作っても、ただの生命維持活動の一環でしかない。食事を楽しむということ自体、一人でぐ~たらを演じることいることでしか自身が守れない彼女には一生できないことだ。


 でも、なぜこのタイミングで?


「なぁレルス~?なぜそなたは剣を身に着けておらんのじゃ~~?男らしくないの~。」

 ――竹刀ならともかく鉄の剣、鉄の塊だぞ?しかも日本刀のように細身の剣ではなく、大剣の部類だ。こんなもの普通に生活するうえで邪魔にしかならない。

「宮殿の中では必要ないだろ?」

「はぁーせめて宮殿の外ではなぁ~剣くらい~~」


 リーディアはあくびをし、再び眠たそうな目を擦りながら、席を立つ。

 ネグリジェを引きずりながら去り際に軽く手を振って食堂から出る。

 入れ違うようにメイドが次のコース料理がのった皿を持ってき始めていた。


「王女様の声が聞こえたような気がしたのですが?」

「気のせいではないのか?」


 王女は身を晒してまで何をしに来たのだろうか。俺が今日宮殿から例の領主の元へ旅立つから会いに来ただけなのか?


 自惚れるな俺!!


 王女は最後に『宮殿の外ではなぁ~剣くらい~~』と言っていたよな。宮殿の外では剣くらい持てとでも言いたかったのか?宮殿の外に出ても護衛がいるのに威厳のためだけに剣を持っておけと言いたかったのか?


 いや、ぐ~たらを演じるリーディアのことだ。そんな浅はかな助言をするためだけに、自分の部屋から出るという危険を冒すわけがない。


そういえば王女自身もドレスのスカートの中にナイフを隠していたな。王女と俺以外立ち入ることのできない王女の部屋のはずなのに。


“自分の身は自分で守れ”


朝食を食べ終えると、俺は急いでドッス・コイジャーに、出立前に剣を準備するように言いつけた。


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