第8話 玉座
さっきの発言が、カエザル派以外の反感を買ってしまい、議会はヤジでざわつき始める。
「お前が座ってる玉座は王女の座だ!!」
「王女が王女たれば、お前が今座っている玉座からも引きずり下ろすことも容易いぞ」
「王女が怠惰にお過ごしになっているのはカエザル、お前のせいだ」
あまりにも悪い意味で盛り上がる議会。さっき演壇に立っていた議員はカエザル派という素性が分かっていたため、喧嘩を売ることができた。今、騒いでいる奴らは誰なのか?
俺は、議会場に連れられた緑色の背広の議員を、手招きで呼び出した。
「なぁ。今騒いでいる連中って?」
「おそらく王女派の議員かと」
「ほう」
――王女に『税を下げろ』と助けを求めてたのは、やはりレルス村の人達で、まさかの、税を軽くしたのに王女派の人達の反発を買うとは……さすがにさっきのセリフは語句が強すぎたかぁー。
俺は立派な椅子から立ち上がり、ヤジを鎮めるために大きく手を叩き、拍手を彼らに手向けた。拍手を打つ時間と比例するようにヤジは次第に小さくなっていく。
ヤジが静まると、俺は土足のまま玉座の上に立った。
「王女もとより俺にもお前らにも言えることだが、このちっぽけな椅子に誰が座ろうが関係ない。玉座の上でふんぞり返り胡坐をかいていれば王なのか?それならばそなたらが、ここに座ればいい。不毛に腐れ切ったこの座にな!!」
俺は完全にハイになっていた。城門の前で起きた一件もあってか、カエザルという主人公に入り込んでしてしまったかのように、悪役カエザルの虎の威を借りるようにして……
俺は椅子から降りると、椅子の背もたれを両手で掴み、思いっきり力を込めて倒すように投げ、玉座である椅子を王の高みから投げ落とした。
「玉座は名誉であって地位ではないし、民の命を奪って得られるものでも、血の色で受け継がれていくことが正しいとも限らない」
俺ではないカエザルの今までの行いを全否定したかのような発言に、議員たちは静かにざわめき始める。少なくとも自分がした発言はカエザル派、王女派、両者に喧嘩を売る発言だったことに違いなかった。
背後にのしかかる議員らの噂をするような静かで不気味な視線を浴びながら、王国議会を後にした。
廊下に出ると、迷わずに帰れるかと不安に駆られたが、来た道を戻るだけ。同じような壁や廊下が続く宮殿内で戸惑った場所もあって遠回りしてしまったが、無事に王女の部屋に戻ることができた。
「レルス~遅かったの~。何をしておった?」
「少し宮殿内を散歩しておりました」
「ま~た水が空になった。注いでくれないか?」
「かしこまりました」
お菓子だらけの机の上に置いてあるポットを手に取って、ソファーに寝そべる王女の側に近づきしゃがみこむように片膝を床につける。
城門の件と国会議会の件、二つの大イベントを乗り越えた俺は、溢れる達成感に満たされながら、王女が持つコップにポットの口を近づけ、丁寧に水を注いでいく。
だいぶ王女補佐官レルス・カエザルのロールプレイの仕方が分かってきたと余裕をぶっこきながら、ポットから流れ出る水を眺めていた時のことだった。
「なぁレルス?」
ぐーたらしている王女の声とは思えない、低い気迫の声とともに、白くきれいな手が俺の首元へ迫ってくる。
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