双生の悪役令嬢

ふぁる

プロローグ

——嘘でしょ……?


 華は呆然としながら弓を握りしめ、辺りの惨状を見つめた。

 雨の様に降りかかる矢に射抜かれて、次々と落馬していく騎士達。あの勇ましかった姿はどこへやら、彼らは悲鳴を上げて逃げ惑い、降りかかる矢に射抜かれ、馬は暴れ、落馬した騎士達を蹴り、踏みしだく。


「ヨハン!!」


 華は声を張り上げて叫んだ。


 声を掛けられた男は馬上で呆然とし、矢をその身で受け止めようとしているかのように空を見上げていた。


 サラサラと彼の金髪が風で揺れる様子が、まるで時が止まっているかの様に思えた。


「ヨハン!! しっかりしてっ!!」


 再び華が叫ぶと、彼はポツリと呟いた。


「……私だけを、狙えば良いものを」


 華は唇を噛みしめた。


 ——ゲームのキャラのくせに、貴方はあれこれ悩んで独りで背負い過ぎだ。


 すっと矢をつがえて、華は顔を上げた。崖の上に整列している弓兵達へと向ける。


 ——私が、貴方を護ってあげる!


 華が崖の上へと放った弓矢が、次々と弓兵達を射抜いていく。唇を噛みしめて、これはゲームの中だ。彼らは敵のデータに過ぎないのだと自分に言い聞かせながら。

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