怪異溢れる世界
甲羅に籠る亀
小学生編
第1話
「ん、んん……んー、重い……なん、だ?」
目を覚まして腹の上に乗っている重いものを見ると、そこには黒い猫が丸まって眠っていた。
なんで、俺の家に猫が居るんだ?そんな疑問が頭に過ぎると、突然頭の中に知らない記憶が流れ出す。
それはこの身体の記憶だった。これまでの生まれてから今の歳までの記憶と、記憶に残っている感情が流れ込み、前世の俺と融合していく。
記憶と精神の融合は体感では数時間ほどに感じたが、実際には数秒だっただろう。
何故、前世の記憶が蘇ったのかは分からない。だが、今の俺は前世の方が生きていた年月が長いからか、今世の僕ではなく前世の俺の意識が割合を占めている。
「それでも俺は僕で、僕は俺なのは変わらない。それにしても過去に転生したのか?」
今世の僕の記憶では今は平成だ。でも前世は平成は終わって令和に年号が変わっている。過去に転生したのなら前世の俺もいるのだろうか。
「ん?討滅師?怪異?」
前世の世界には一般的ではない様な単語が今世の僕の記憶の中にあった。
それが討滅師と怪異だ。
今世には怪異と呼ばれる化け物が人を襲い討滅師が怪異を倒す。そんな事が日本で当たり前の様に起こっていると言う記憶がある。
「これ、別の世界に転生したのか?」
この世界は前世の並行世界なのかも知れない。でも、それを確かめるすべは俺にはないから、結局なぜ俺が転生?前世の記憶を取り戻したのかは分からず終いだ。
「それにしても不思議だな。」
「にゃ?」
「ん?」
猫の鳴き声が聞こえて鳴き声の方を見ると、黒猫が金色の目を向けて俺の事を見ていた。
「クロ、おはよう。」
「にゃ〜ん!」
ゴロゴロと喉を鳴らしている黒猫。この黒猫の名前はクロノワール。長いからクロと今世の僕は呼んでいるペットだ。
「今日は検査をするって、お母さんが言ってたな。」
昨日の夜に言われて事を思い出した俺は、ゴロゴロと喉を鳴らしているクロを抱き上げると、布団の中から出る。
「にゃーん!」
「布団を畳むから退いてね。」
抱き上げたクロを床に下ろすと、抗議しているかの様な鳴き声をクロは上げるが、気にせずに俺は布団を畳んでいく。
「クロ、行くよ。」
「にゃ!」
二階にある自室から一階のリビングに向かう。クロがぬるんと足の間をすり抜けて先に一階に向かって行く。
そんなクロに続いて俺も階段を降りてリビングに向かうと、美味しそうな匂いがしていた。
台所を見ると、母親の
「お母さん、おはよう。」
「おはよう、ハジメちゃん。朝ごはんが出来るから顔を洗ってらっしゃい。」
「ん、そうする。」
洗面所に向かい顔を洗ってリビングに戻って来ると、朝ごはんの用意が終わっていた。
「いただきます。」
朝食を食べながら考える。今の俺は違和感なく普通に母親をお母さんと呼んでいる。これは今世の僕の影響だろう。俺も普通にあの人が母親だと理解して安心感を抱いている。それが可笑しい事ではないと思う。
それに鏡で確認したが、今世の容姿は前世の時よりも良い容姿をしていた。これは将来に期待できるだろう。今世は童貞で終わる事は無さそうだ。
「ごちそうさま。」
「食べ終わったら持って来て、洗っちゃうから。」
「うん、分かった。」
食器を全て持って台所にお母さんに渡すと、その時に出掛けるから着替える様に言われると、すぐに二階の自室のタンスから衣服を出して着替える。
着替えてリビングに戻ると、クロが足に纏わり付いて来た。
「にゃーん!」
「どうした?」
抱き上げるとゴロゴロと喉を鳴らしながら身体を擦り付けて来た。
そんなクロを抱えたまま時間が来るまでの間、今世の日課になっている日向ぼっこをしていると、出掛ける時間が来た様だ。
「予約してる時間は10時だからね。ハジメちゃん、もう行くよ。」
「ん、分かった。クロ、下ろすよ。」
「にゃにゃん!」
下ろすなと抗議するクロを下ろすと、出掛ける準備を終えたお母さんの元に向かった。
「クロちゃんは連れてけないわ。お留守番お願いね。」
「にゃーん!」
俺の後ろを付いて来ていたクロにお母さんが一言言うだけで、クロは納得したのかリビングに戻って行った。
「いってきまーす。」
自宅の一軒家を出ると車に乗って市役所に向かう。
今日行なわれる検査は7歳になったら全員が行なう討滅師の才能があるかを調べる検査だ。
この検査の結果次第で今後の人生が決まると言っても過言じゃない。何故なら今世の日本は怪異と言う化け物が蔓延っているからだ。
怪異は人を餌とする存在で、人から発生する生体エネルギーが身体を構成している為、身体の維持に欠かせないとテレビでやっていた。
その為、怪異と人は相容れない存在同士なのだと言われていた。これもテレビの請け合いだ。
そんな怪異と戦う存在である討滅師は、今の日本には欠かせない存在。だからこそ、討滅師の才能がある子供の将来は怪異に関わる仕事しか仕事がないと思われる。
現に今世のお母さんとお父さんは討滅師の才能がない方が良いと言っていたからだ。
前世ではフィクションの様な事が起こるこの世界に転生したのだから、非日常と言える事には興味があるが、生命の危険を考えると討滅師の才能がない方が良いのだろう。
流石に自分の生命をチップに非日常の体験をしたくはない。
そんな事を思いながら走る車の外を見ていると、車の行き来が多い交差点で車が止まる。
そんな折、交差点の真ん中に奇妙なモノが視界に入る。それは身体の曲がらない方向に関節が曲がっている人の様だ。
あれは人ではない。それを直感で理解すると、俺はあれが見えない振りをする。もし、あれがこちらが見えていると気付けば、俺の方に接近して来るはずだ。
そう思い無視していると、怪異と思わしき存在がこちらを見ているのを感じ取り、怪異が接近しようと俺の元へと向かい始めた。
「ひっ!」
そのタイミング青信号になり、車が動き出して行く。だが、走り出した車を追って来る怪異の姿がバックミラーに映っている。
「どうしたの?ハジメちゃん。」
「交差点に居た変な奴が車を追い掛けて来る!!今もだよ!!!」
「ッ!!本当なのね!」
バックミラーをお母さんは確認しているが、お母さんにはアイツの姿は見えていない様だ。
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