薄命少女、生存戦略してたら周りからの執着がヤバイことになってた

本郷 蓮実

第1話 転生直後、凍死の危機!



――私には前世の記憶がある。


 前世では原因不明の病に罹り、長い闘病生活のすえ、15歳という若さで生涯を終えてしまった。


 経験したいこと、行ってみたい所がたくさんあった。なにより、両親に親孝行ができなかったことが一番の心残りだった。

 だから、もし生まれ変わることができたら『1に長生き、2に長生き』を人生の目標に生きていこうと決めていた。


 それなのに。


 気が付いた瞬間、私は凍死寸前だった。

 病室で息を引き取ったはずなのに、気が付けば体半分が雪に埋まっているのだ。


 え? なに? どういうこと??


 理解が追い付かない。辺りは一面に雪が積もっているだけでここが何処なのかも分からない。

 体は雪の冷たさを思い出したかのように小刻みに震え出す。このままでは状況を把握する前に凍え死んでしまう。立ち上がろうと藻掻いたが、冷え切った体は思うように動いてくれない。そうしている間にも雪は降り積もり、私を埋めていく。


やばい! 死んだ直後にまた死んでしまう!

なんで? どうして? ここは死を繰り返す地獄だとでも言うの? 私、地獄に落とされるような悪いこと、した?!


 嫌だ!死にたくない!!

 今度は長生きして、人生を謳歌するって決めてるんだからっ!


「う、うぅう~!」


 私は力を振り絞り、死に物狂いで腕に力を入れる。何がなんでも死にたくない、そんな必死の思いで伸ばした手は誰かに掴まれた。


「シスター! まだ生きてる!」


 そう言って私を引っ張り上げてくれたのは、明るいオレンジ色の髪と瞳をもった、10歳前後の男の子だった。後ろにはシスターと呼ばれた中年女性の姿も見えた。


 動けない私を雪の中から掘り起こし、おぶって連れてきてくれたのは古びた建物。どうやら孤児院のようだった。数人の子供たちがカチコチになった私を古びた毛布で包んで取り囲み暖めてくれた。


そうして、私は凍死の危機から逃れることができたのだった。


 私を救ってくれた男の子はウィル。シスターの名前はセレナといった。

 二人は食料を買いに行った帰りに偶然私を見つけて助けてくれたらしい。身寄りのない私はこの孤児院で生活させてもらえることになった。


「ふぅ……」


 私は水溜まりに映った自分の容姿を今一度、確認する。そこには4、5歳くらいの幼児が映っていた。鮮やかな赤色の髪、蜂蜜色のぱっちりとした瞳。確実に日本人ではない。


 最初は外国かとも思ったが、どうやらここは異世界らしい。


試しに右手を前に掲げ、蝋燭の炎をイメージしてみる。人魂ほどの大きさの赤い炎が手の平の上に出現した。


「魔法があるなんて、普通の……前世で生きてた世界じゃありえなかったもんね」


私は吐息して炎を消し去った。


「リタ」


呼び声に振り返るとウィルが訝しげに私を見ていた。


 リターシャ。


 それが私の名前らしい。ポケットに入っていたハンカチにリターシャと刺繍がされていたのでそれが私の名前となった。

 みんなからは短く「リタ」と呼ばれている。前世は「上田あかり」だったから、まだ呼ばれ慣れない。


 ウィルは、どうやら私が水溜まりに飛び込んで服を汚すのではないか危惧しているようだった。これでも中身は15歳なので、そんな幼稚なことは……しない! うん、しないぞ!


「ご飯の準備ができたから行こう」


 ウィルに手を引かれて歩き出す。私とウィルはすっかり兄と妹のような関係になっていた。口うるさく感じることもあるけれど、面倒見のよいウィルに私はすっかり甘えてしまっている。私は繋いだ手をブンブンと機嫌良く振り回した。


 幸い、前世のような貧弱な体ではない。手も足も自由に動くし、どこも痛くない!


「健康って素晴らしい!」


「リタは本当、突然変なことを言い出すよな」


 前世では気軽に外にも行けない体だったため、ついはしゃいでしまう私を押し止めるのもウィルの役目になっていた。

 そんな私の奇行に慣れてきたのか、呆れた表情をしながらもウィルは離れないように繋いだ手をぎゅっと握り直す。


 恵まれた身の上とは言えないけど、私には家族に等しい孤児院のみんながいる。


 今回の人生では100歳のおばあちゃんになるくらいまで長生きしてみせる!


 そう強く心に決めた私だったが、目の前に出された本日の昼食に勢いよく項垂れることになった。


「本当はみんなにお腹いっぱい食べてもらいたいんだけど……ごめんなさいね」


 具なしスープとパンひと欠片のみの昼食にシスターは申し訳なさそうな頭をした。


 孤児院を運営するための費用は支給されてはいるものの、微々たる額なのだろう。私が加わっただけでも大きな打撃になったはずだ。


 ぐぅぐぅ鳴るお腹を押さえ、私は再び浮上した命の危機に打ち震えた。



 まずい!このままでは餓死してしまう!



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