こんな異世界に転生なんてしたくない!
マインドフルネスERA
プロローグ〜ウイルス感染ふざけんな
俺はどこにでもいる26歳、会社勤めのサラリーマンだ。彼女はもちろんいないし、家族とは訳あって疎遠になっている。
会社終わりにコンビニでビールとつまみ、それにお惣菜を買う。
そして、いつもの家に帰る。なんの変哲も無い人生だ。
家に着くと、時刻は23時を過ぎていた。
「はぁ、こんなに帰りが遅くなるなら、主任になんてならなくてよかったなぁ……」
深いため息と共に部屋の明かりを付ける。ワンルームのこじんまりとした部屋だ。
靴下を脱ぎながらよろよろと歩き、パソコンの電源をつける。ローディング画面が表示されている間に手を洗い、スーツをベットに脱ぎ捨て、ゲーミングチェアに座る。体はもう、クタクタだ。
買ったばかりの冷たいお惣菜を開け、つまみを口に放り投げる。左手でビール缶を開け、喉に流し込む。
「くうぅっ! あぁ、今日も疲れたな。さて……始めますか!」
俺には唯一の楽しみがある。数ヶ月前に買ったVRオンラインゲーム『Another New World』、通称”ANW”。
そこまで爆発的に人気になったゲームではないが、ネットではそこそこに評価が高いゲームだ。
俺は発売当初からこのゲームにのめり込んでしまっている。家に帰るとログインし、休日は一日中プレイしている。このゲームには様々な魅力があると思う。
無課金ユーザーに嬉しい豊富なログインボーナス。
個性豊かなキャラクターと膨大なストーリー。
多種多様な戦闘スタイルに快適な操作性。
歯応えのあるカッコイイ敵と可愛い仲間たちーー
……何をあげても誉める箇所しか見つからない。
そんな『ANW』をやり続け、先日ついにプレイ時間が1000時間に達した。
1000時間の特別ログインボーナスで1000万コインと超豪華な装備品を手に入れることができた。よもや熟練プレイヤーと言っても過言ではないだろう。
再び酒を口に含んだ時、ローディングが終了した。すぐにカーソルを動かし、ログインをクリック。すぐにVRヘッドセットを装着する。ここからはマウスではなく、専用のコントローラーを両手に持って操作する。
目の前にデータ選択画面が広がる。前回セーブしたデータを選択すると、宿屋と自分のキャラクターが現れた。
(今日はこの前もらったログインボーナスの装備で強いモンスターを狩りに行こう)
宿屋を出て、街の外へ。ログインボーナスの豪華装備を装備する。
しばらく草原を歩いていると、それなりに強いライオンっぽいモンスターにエンカウントする。
モンスターは250レベル。自分のレベルは600を超えているため、難なく倒すことができるレベルだ。各々の街にいる仲間を召喚するほどではない。
(技を選択……あえてここは弱い初期武術のフレイムキックあたりにしよう)
武術を発動しようとした時ーー
突如赤色のポップが視界を塞いだ。
「ん、なんだ? ネットの回線が落ちたか?」
ポップに記載されている文字を読んでみる。
「えーっと? 何なに?」
『あなたのアカウントに異常を感知しましたでちゅ。よってこのアカウントは現在使用することができないのでちゅ。また、あなたはゲームのやり過ぎでちゅので一回このゲームから離れまちょうね〜ぷっぷっぷー』
「……だって!? なんだよこのくっそ腹立つ文章は!!」
カッとなった俺は飲みかけのビール缶を握りつぶしてしまう。ゲーミングデスクがビールまみれになってしまうがそれどころではなかった。
ヘッドセットを外し、すぐにLANケーブルを引っこ抜く……が、画面は何も変わらない。トップメニューを開こうとマウスを動かすが、パソコンは反応しなくなっていた。
パソコンとヘッドセットの画面は赤いポップを表示したままフリーズ。パソコン自体の電源を落とすこともできなくなっていた。
「おいおい……悪い夢だろこれは? この前プレイ時間1000時間超えたんだぞ? バックアップもしてなかったし! くそックソオォーー!」
ゲーミングデスクをバンバンと叩くと同時に目頭が猛烈に熱くなった。これまでの思い出がウイルスによって踏み躙られたのだ。
目の前の状況に絶望し、買ってきたビールを全部取り出す。
一気に飲んでいく。やけ酒だ。買ってきた酒を全て飲み干す。
一気に飲んだことで、あっという間に酔い潰れてしまう。視界が揺れ始め、頭痛と急激な眠気に襲われる。
「くっそーー! 明日ゲーム会社に連絡して何とかして……もらわねーと、な……」
酔い潰れてしまい、真はパソコンの前で深い眠りに落ちた。
ーーしばらくすると、画面の赤いポップが突如消える。
パソコンのファンが激しく稼働。画面には再びローディングが表示される。
ローディングが終了すると虹色のポップが現れる。
『ログインが完了しました。ようこそ真様、Another New Worldへ!』
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