●●●●の場合④


 ゲンは歩きながら、魔人について少しカイに解説した。角が特徴的な人型の魔物。基本的に人間に危害を加えようとはしない。今は、仲間探しをしている途中。ゲンはヴルシェに助けられて一緒に行動している。


「まじん……」


 カイは繰り返す。彼女が知らなかったのは当然だ、魔人に関する情報は会館によって厳重に管理・統制されている――いやそういえば、その会館から情報を盗んできたのはこのヴルシェとペルメスの二人ではなかったか。まあ魔人と裏で繋がって情報提供してもらっていると判明した時点で、既にゲンの中での会館への信頼は薄らいでいる。戻ることになるかは分からないが、そうなるとしてあまり関わろうとは思わない。“白い杖”くらいの距離感が丁度いいと思っている。頼まれればクエストは受けるが、人数は適当で施設もほとんど利用しない自由な生活。魔人のところから離れたら、とりあえず“白い杖”の厄介になろうとゲンは決める。


 話がズレていた。魔人について話しても、カイの態度は変わらなかった。いや、少し怯えてはいるようだが、帰ろうという気にはなっていないらしい。なかなか強い人間だ。


「それで? いつ? 今日?」


 ヴルシェの隣を歩くペルメスが言う。


「ダルテリと合流してからかな」ヴルシェは答えるが――カイだけでなく、ゲンも、それが何の話か分からない。


「あの、何の相談ですか」


 ゲンはすぐに尋ねた。ヴルシェなら教えてくれると踏んだのである、ダルテリはどうだか知らないが。


「ん? まあ教えようか。




 ――




 ……誰?



   *



 その後の説明は特になく、クレミェの小屋に着いた。進んでいこうとすると、


「誰かいるね。一人」


 ペルメスが言って足を止める。それに倣ってヴルシェも止まり、後ろの二人は止まりきれず前の二人に衝突した。


「クレミェさんではなくて?」


 ゲンはヴルシェにぶつけた鼻をさすりながら言う。


「クレミェじゃない。魔人じゃないね」何を根拠に言っているかは分からないがペルメスは言葉を続ける。「でも人間が迷い込むとは思えないし」


「……それ、リョーさんじゃないですか」


 ゲンはヴルシェを介して言う。ヴルシェは、「竜人が、この間クレミェに弟子入りしたんだけど知ってる?」とペルメスに訊く。


「あー、ソレかも」


 とりあえずの仮説が立って、ペルメスは歩き出す。ヴルシェとカイもついていったが、リョーかも知れないと言ったゲンが、一番その説を疑っていた。ペルメスは誰かが一人、建物の中にいると言った。これを正しい情報とすると、それはリョーであり得るだろうか。リョーはクレミェと行動を共にしているはずである。独りで小屋に戻ってくる用事はない。忘れ物をしようにもリョーは特に何も持ち運んでいなかった、せいぜい剣くらいだし、クレミェもこの建物内に私物を置いているふうではなかった。喧嘩でもして独りで戻ってきたのかとも考えたが、二人が喧嘩するほど自己をぶつけ合うことはないだろう。一応、師弟関係であるし。


 しかしリョーでないとすれば、いよいよだれか分からない。ペルメスは魔人でなければふつうの人間でもないと言う。確かにこの辺りには、ちょっと迷ったくらいでは辿りつけない、意志を持ってくる必要がある。ということはここに小屋があることを元々知っていた? それは違うか――しかし一体、


「ゲンー。早く来て」


 ヴルシェが建物の入口でゲンを呼んだ。既に扉は開いていて、中に誰がいるかは確認済みであろう。その上で彼を呼ぶということは、彼の知り合いなのか。しかしゲンの知り合いでこんなところに来そうな人間はいないし、竜人の知り合いはリョーしか――


 いや。


 なぜヴルシェがゲンの知り合いなど知っている訳もないのに彼を呼ぶのか。それは一目見て、ゲンなら知っているかも知れないと考えたからではないか。つまりそれだけ特徴的ということ――竜人。竜人との接点はあった――リョーの村だ。あの地からリョーを追ってかここに来て、ヴルシェは、その角と尻尾を見て竜人と判断し、リョーと共に村へ行ったゲンんい判断を仰ごうとしているのか。とにかくゲンは建物まで行く。


 果たしてそこにいたのは。



 我がもの顔で椅子に座っている、リョーの弟、リューだった。




「なるほど、リョーの匂いを辿ってここに着いたと。気持ち悪いね」


「人聞きが悪い。俺のスキルだ」ヴルシェの言葉にリューは返す。


 とにかく、リューはどうにかしてここまで来たらしい。ここにいるという結果がある以上、どうにかなったのだろう。問題は、なぜ来たのか、である。


「姉貴が前の仲間から離れて新しい仲間を得たようだったから見にきたってだけだ」


 リューは言い、


「うわ、つきまといだ。変態だ」


 ヴルシェはまたもやそう言ってからかう。


「断じて違う。それで姉貴がいないのを見計らって来たところに、お前たちが帰ってきたという訳だ」リューはそうゲンに言う。いないのを見計らって、ということはリョーがいないことは知っているが、なぜいないかは知らないということか。「リューさん、リョーさんは今、」


「じゃあスキルっていうけど何なのさ、キミのスキル」


 ヴルシェはまだ絡もうとする。リューは苛つきながら、「スキル【龍神 リュウシン運命サダメ】です」と答える。


「――ふーん」ヴルシェは今度は特に何も吹っかけることなく言う。「あれ、ゲン、スキル使ってやればいいじゃん。『運命サダメ』って三番目でしょ? ゲンのスキル【天元テンゲン突破トッパ 】なら」


「そういえばそうですね」ゲンは言う。リョーも、再会したはいいがスキルにはノータッチだった。帰ってきたら訊いてみよう――まずは、目の前のリューである。「ということなんですけど使いましょうか」とまず尋ねる。


「お前、限界突破スキル持ちだったのか」


「そうです。レベル見てもいいですか」


「もう上限だ」リューは言う。ゲンは彼の胸の前に手をかざした。



『スキル【龍神の運命】 lv.120。

 スキルのレベルが最大です。

 サブスキル【ホシ翼】ツバサ  lv.45

 サブスキルのレベルが最大ではありません。

 スキルレベルの限界突破が可能です。

 スキル【天元突破】を使用しますか?』



 確かにそのようである。「しますか? 突破」


「まあ頼む」


「使用」



『スキル【天元突破】を使用。

 スキル【龍神の運命】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【龍神の運命】はスキル【龍神の意志イシ】に進化しました。』



「【龍神の意志】、か」


「素晴らしい。キミもボクのペットにならない?」ヴルシェはいきなり言った。


「ペット? 何言ってんだアンタ」


「あー、気にしなくて大丈夫です」


「じゃああとは、ダルテリが来しだい――カイ、レベルいくつ?」


 ヴルシェは思い出したように言った。


「レベル32です」カイは答える。


「32かー、ゲン、とりあえず100まで上げてきて。今日じゅうに」ヴルシェは言って――何かをゲンに投げる。


「今日じゅうですか」ゲンは投げられたものを受け取って、そう応じた。


「いやダルテリはさ、来ようと思えばいつでも来られるんだよ。できるだけ早くって意味で今日じゅう。ダルテリが来た時点で用意が整ってなきゃ、あれこれ指示されて面倒だから」


「まあ分かりました。行こうカイ」ゲンは隣の少女に言う。「リューさんは、ヴルシェさんたちと仲よくやって下さい。リョーさんもそのうち戻ってくるのでもしよかったら待ってて下さい」そう言い残して、ゲンは小屋を出ていった。

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