ソーク・グルテルの場合③


 かつての仲間、フウが現れた。


「久し振り――って、え? 子供? 子供??」


 ゲンはノリアを抱いていたことを思い出して、慌てて彼女を地面に下ろす。


「ぼ、僕のじゃないですよ!?」


「そ、そうか……というか、知らないのか? ここは今、立入禁止だ。すぐ来た道を戻れ」


 フウは混乱しながら言う。


「はい。ん……フウさんはどうしてここに?」


 ゲンは当然の質問を投げかけた。


「俺か? 俺はアレだ、《探索――》、いや、手伝いでな。強い魔物が出たらしくて、俺はほら、レベル120だから」


――ですよね」


 ゲンは言った。レベル120になりその強さを認められ、フウも《探索クエスト》を受けられるようになったのだ。魔人の存在は一般には秘匿されているため彼は誤魔化したが――ゲンには隠す必要がない。そしてそれはゲンのほうも同じである。


「……知ってたのか」


「知ったのは昨日ですけど。でも直接会った身から言わせてもらうと、フウさんも、帰ったほうがいい。奴らと会ったが最後、どうなるか分かりません」彼の口を突いて出たのは、なぜかそんな心配の言葉だった。「リョーさんと、ヒッツさんは? いるんだったら――」


 彼は。その言葉の途中で、目の前の男の表情に気づく。


 その相貌は、喜びも、怒りも、哀しさも、楽しさも、全てを同時に感じ、かつ全く感じていない、そんな感情の煮詰まった灰汁アク


「――


 彼は細い声で言った。


「俺の目標が。目的が。なくなったんだ――俺は、どうすればいい? これから何のために、冒険者を続ければいい」


 そうだ。フウ、もとい“オリーブの鱗”は靁羆を倒すことを一大目標に掲げていたが、靁羆それはあっさり、ロイツたちによって討伐されてしまったのだった。


 目標も、目的も失った、


 空っぽが目の前にいた。


「達成できなかったにせよ――目標は常に高く持たなきゃな。魔人ってのは随分強いみたいだからよ」


 フウは空虚に言葉を並べ続ける。


「フウさん――」


「俺はまだまだ強くなるから、強くならなきゃいけないから、だから――」



「――フウさんッ!」







 ゲンが見ていたのは、フウ――ではない、彼の後ろから、突如として現れたのは、


 人間――ではない、角の生えた――魔人。


 大きく禍々しい角が、頭の両側に見える。


 片角のダリテリではなく別の魔人である。



 ソレはの大剣を振り上げ――



「【銀の杖】!」



 ロイツが現れた。ソークのスキルで移動してきたのだ。


 まばゆい光を放つ杖が、ソレの前に飛び出し、






「【加害カ ガイ】」






 の剣は。杖を――まるでかのように――刃は。



 フウをまっすぐ狙う――



 ゲンは。



 フウの身体を突き飛ばし、剣をその身に受けた。


 ずちゃ。


 彼は真っ/二つになり、どさと地面に転がった。


 血飛沫しぶき



 ――――。



  ※



 華洛カ ラク月末日、名称不明としては十二体目、通算十七体目の魔人が確認された。

 報告者、“白い杖”リーダー、ロイツ。

 死亡者一名が同時に報告されている。











〖第二章 了〗

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