ノリア・ヒンヴァーの場合②
《クエスト
「行くよヨーカー!」
「いってらっしゃい」
ヨーカーに乗ったノリアを見送る。
「ただいま!」
「早いな」
半刻も経たないうちに一人と一匹は帰ってきた。
《クエスト達成》
*
《クエスト:トゥレイス石の採集》
「トゥレイス石はトゥレイス島のみに見られる特別な鉱石での。【實リノ秋】」
「そうなんですね」
いつもの岩の、ロイツが撫でた箇所が少し光り、パキパキと黄金色の石が生えてくる。
「大変珍しく価値の高い石なんじゃ」
「……そうなんですね」
彼はその石をパキッと折った。
《クエスト達成》
*
《クエスト
「スキル【
『ぢーっ! ぢーっ! ぢーっ!』
フクシーの声に応じるように、鼠たちは騒ぎ。
「ぢぢっ!」
『ぢぢっ! ぢぢっ! ぢぢっ!』
我先にと、その土地から、その街から、出ていった。
《クエスト達成》
*
《クエスト:
「スキル【巌窟王】使用。いたいた」
「早い……」
ソークはまっすぐ、森を横切っていく。
「範囲を狭めて――捕獲、成功」
「早い……」
彼は、鼬を閉じ込めた立方体を優しく持ち上げる。
《クエスト達成》
*
そうして四つのクエストが一日のうちに、どころか半日のうちに終わってしまった。
「午後には大きいのが一つあるからの」
ロイツが言った。午前の四つも決して小さくはない、どころかそれぞれが、“オリーブの鱗”では一日二日かかるクエストだし、“剣の舞”ではそもそも受注できない。
一同は昼食の鍋を囲んでいる。鍋の中で煮えているのは、香草と、午前にノリアとヨーカー討伐した象の肉である。討伐クエストの標的は依頼主から特に指定がなければ、クエストに成功すれば基本的に死体は自由に利用していいことになっている。今回は牙は依頼主に引き渡され、その他の部位、皮や肉や骨などはパーティのものとなった。達成報酬とは別に、肉が手に入ったらそれを食べているだけであって、
正直固くて美味しいものではない。
「ぷにぷに食べる?」ずっと同じ肉を飲まずに噛んでいるゲンを心配してか、ノリアがソークの後ろを回ってきて彼の隣に腰を下ろした。ゲンが彼女の器を覗くと、どうも脂肪のことであるようだ。ゲンは少しもらって口に入れてみる。
とろりとした口どけ。少し残っている肉の部分もすぐに飲み込め、汁や野菜と相まって美味しく頂くことができた。
「……」ゲンは再びノリアの器に匙を伸ばす――手を、フクシーが掴む。「肉を食べろ。細いんだから、筋肉つけないと」
「なんで! いーじゃん美味しくないんだから!」
「好き嫌いはダメ。アンタは顎が弱いから無理に食べさせてないだけ」
ゲンは二人に挟まれ、身を縮こまらせる。
「ぼ、ぼくは好きだけどなー……」
ソークが口を挟むと、
「「ちょっと黙って」」二人は厳しく応じ、睨み合いに戻る。
「午後のクエストの話をしようかの」
そんな中、ロイツは自分のペースを崩さずに器を置いて口を開いた。
立ち上がっていたノリアとフクシーは一度座る。二人が大人しくなってゲンはようやく一息つくことができた。
「受注したのは《探索クエスト》じゃ」
「『探索』……」聞いたことのない種類のクエストだった。クエストには大きく討伐、撃退、捕獲、採集といった種類がある。討伐は対象の死体の半分以上、及び依頼主の要求部位を持ち帰れば成功。撃退は特定の地域の外に対象を追いやれば成功。というふうに。『探索』ということは対象がいて、それを探すということなのだろうが、討伐でも撃退でも捕獲でもない、無生物だとしても採集ではない、『探索』。つまり、何もするなということである。
「《探索クエスト》かあ……」フクシーは空を仰ぐ。
「ゲンが知らないようじゃから全体で再確認するが、相手は――
――魔人?
「魔人は人型の魔物の総称だよ」ソークが補足した。「ぼくは今まで一回しか見たことないけど……他の人は」
「私は三回」
「儂は分からん。憶えているのは四人じゃ」
ノリアは。
答えずに――俯いて、先ほどの威勢はどこへ行ったのか、じっとしている。
喧嘩していたはずのフクシーは、彼女を抱き寄せ、頭を撫でてやる。
「魔人は相対するだけで相当体力を使う。ゆえにゲンには初回はクエスト参加を見送ってもらう」ロイツは言った。「ゲン、ノリアと共に残っていてくれるかの」
「……分かりました」ゲンは応じた。「その、初回というのは、これから何度かに分けて探索をするということですか」
「そうじゃな。今日はとりあえず日没までには切り上げる。一度でも見かければそれでクエスト達成となるが、そう簡単とも思えなくての。
ロイツは立ち上がる。「行こうかの。【銀の杖】――」
ロイツは白銀の杖を手にした。
ソークも立ち上がり、フクシーはノリアの身体をゲンに預けた。「行ってくる」
「いってらっしゃい」
ゲンは言って、三人を送り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます