フクシー・ブルートーの場合①


「乾杯」


 ロイツの音頭で五人はグラスをぶつけ合う。会館の食堂にてパーティ“白い杖”の歓迎パーティが始まる。


「自己紹介がまだだったの。儂はリーダーのロイツじゃ」


 相変わらず年齢のいまいちよく分からない男が最初に言った。


「私はもう名乗った通り。フクシー・ブルートー。そしてこっちのチビが――」


「チビじゃないよっ!」女性の言葉に少女は反応する。「ノリア・ヒンヴァー! あの子は雹狼の ヒョウオオカミヨーカー」言って彼女は食堂の外で待っている狼を指す。


「ぼ、ぼくはソーク・グルテル」カップを両手で持って男は言う。「よろしく……」


「少年くんの番だ」


 フクシーはカップを呷ってゲンに言った。「そういえばスキルも知りたいな」


「――僕はゲンといいます。スキルは【限界打破】です」ゲンはひとまず応じた。「それと、まだパーティに入るとは――」


「レベルは」


「え?」


「レベル」


「えっと、確認します」前のパーティで三人のスキルを限界突破して以来、そういえば使用の機会がなかった。靁羆を討伐したし多少は上がっているのではなかろうかと、彼は自分の胸の前に手をかざす。



『スキル【限界打破】lv.97。

 スキルレベルが最大ではありません。』



「レベル97です」


「いやー、ありがたいね、【突破】スキルとは」


 フクシーは言う。この人たちも限界突破スキルを求めていたのだろうかと思い、「パーティに入るかどうかは決めてないですけど、いちおう助けられた恩を返すかたちで、スキル使うくらいはしますよ。今レベルいくつですか」


「120」


「え?」


「うちのメンバーはもう全員レベル120だよ」


 120といえば、スキル【限界突破】による突破限界の先――スキル【限界打破】による突破限界だ。フウは経験値の持ち越しによってレベル120に到達していたが、リョーとヒッツはまだまだだし“剣の舞”のメンバーに至ってはレベル100に到達したかどうかも知らない。まあ超級指定されている靁羆の討伐を依頼された、という時点で気づくべきだったが相当レベルの高いパーティなのだ。レベル90→100にはレベル1→90と同じだけの経験値が必要だが、レベル100→120にはその五倍必要だと言われている。そして既に限界に達しているということは、ゲンのスキルは、


「いやー助かるね。よかったなノリア」


「もっとヨーカーと仲よくなれるっ!」


「思わぬ人材発掘じゃの。ありがたい」


「ぼくはまあ、今のままでも充分……」


 “白い杖”のメンバーたちは。


 ゲンのスキルを、喜んでいる。


「えっと、でももう限界突破は――」


「自身のスキルも、限界突破できる」フクシーは言う。「。他のスキルは現時点で二回できるのに」



 確かに――彼女の言う通り、レベル90の時にスキル【限界突破】によって一回、レベル100の時にスキル【限界打破】によって一回、スキルは限界突破できる。そしてスキル【限界突破】自身もレベル90の時に限界突破した。それならレベル100になれば再び限界突破できる、というのは受け入れがたい事実ではない。そして限界突破し、進化したスキルで突破させられる限界は――レベル120。



「そうと決まれば早速レベル上げだ。少年くん、効率のいいレベルの上げ方を知ってるかい」


 フクシーはいつかの誰かのように、そんな質問をした。


 それは『良い思い出』であり。今も、よく憶えている。


「レベル上げに必要なのは経験値、魔物を倒したり、時間をかけてできあがる鉱石なんかを摂取したり、ですか」


「うーん、間違いではないけど」


「おすそ分けするんだよ!」ノリアが言った。


「おすそ分け?」


「経験値はレベル限界まで貯まった後も、蓄積され続けるのは知ってる?」ソークが説明を担う。「それは限界突破した時に還元される訳だけど、貯まってる時点で、他の人に分配することができるんだ。ぼくたちは限界に達してしばらく経つから、少しずつおすそ分けすればすぐレベル100に届くと思うよ」


「補足すると、それは魔物も同じ」


 ロイツが口を開く。


「魔物もそれぞれスキルを持っておって、そのスキルレベルが限界に達すると経験値は魔物にただ蓄積される。それをおすそ分けしてもらえば、たとえば百匹の群れの成員全員に分けてもらえば膨大な経験値を得られるじゃろうて」


 それは、どこまで現実的な話か分からなかったが。


 分けてくれるというなら――もらっていいだろう。


「じゃあ、お願いします」


 ゲンが言うと、まずフクシーがゲンの胸に手で触れる。続いてフクシーに持ち上げられたノリア。続いてソーク。最後に、ロイツが胸に触れる。「確認してみよ」



『スキル【限界打破】lv.100。

 スキルレベルが最大です。

 スキルの限界突破が可能です。

 スキル【限界打破】を使用しますか?』



「最大です。ありがとうございます」


「突破だ突破」フクシーが言った。


「使用!」



『スキル【限界打破】を使用。

 スキル【限界打破】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【限界打破】はスキル【天元突破テンゲントッパ 】に進化しました。』



「【天元突破】……」


「出さなきゃ負けよ、たったらぽん!」


 ノリアのかけ声でメンバーは突破の順番を決めた。



  *



『スキル【天元突破】を使用。

 スキル【領域】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【領域】はスキル【巌窟王ガンクツオウ】に進化しました。

 サブスキル【命綱 イノチヅナ】のレベルの限界突破に成功しました。

 サブスキル【命綱】はサブスキル【碇綱 イカリヅナ】に進化しました。』



 まずはソークのスキル。実戦での使用を見たぶんでは防御手タンク系であるようだ。当初は瞬間移動をする詠唱手キャスターだと思っていたが、靁羆の帯電咆哮が効かなかった理由、それが彼が直前に展開していたスキルではないかとゲンは考えている。



『スキル【ハナツエ】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【華の杖】はスキル【ギンの杖】に進化しました。

 サブスキルを獲得しました。

 サブスキル【イノリノハル】を獲得しました。』



 続いてロイツ。メインスキルを使っているところは見ていないが、特に武器を持っているふうではなく、キャスターだと思われる。



『スキル【二重詠唱】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【二重詠唱】はスキル【三重 サンジュウ詠唱】に進化しました。

 サブスキル【ホコり】のレベルの限界突破に成功しました。

 サブスキル【咲き誇り】はサブスキル【咲きミダれ】に進化しました。』



 次はフクシーだ。スキル名に『詠唱』とついてるからにはキャスターなのだろう。ダブルキャスターとは珍らしい――というかゲンが加入すればトリプルキャスターだ。



『スキル【乗込ノリコミ】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【乗込】はスキル【乗回】ノリマワシ に進化しました。

 サブスキル【ホノめかし】のレベルの限界突破に成功しました。

 サブスキル【仄めかし】はサブスキル【トキめかし】に進化しました。』



 そしてノリアである。彼女はポジションとしてはどこなのだろう。まああくまでアタッカー、キャスター、タンク(、回復手ヒーラー)というのは便宜的な分類で実質的に何が違うという基準がある訳ではないから、無理に規定する必要もないのかも知れない。


 ともあれこうして、四人全員のスキルの限界突破が完了した。

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